山本起也監督「コロナにこの映画の価値を認識させられた」映画誕生までの物語!

のさりの島,山本起也監督

映画『のさりの島』公開記念インタビュー【前編】

5月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となる映画『のさりの島は、ゆったりとした時間が流れる天草に彷徨いこんでしまったオレオレ詐欺の若者とシャッター街で楽器店を営むお婆ちゃんとの奇妙な生活を描いた作品です。

今回は、山本起也監督に本作誕生までの長い道のりを振り返っていただきました。なお、後編では、若者役の藤原季節さんとお婆ちゃん・艶子役の原知佐子さんとの撮影エピソードを伺いましたのでお楽しみに!

のさりの島,山本起也監督

映画『のさりの島』の山本起也監督

きっかけは佐村河内守問題

―― オレオレ詐欺と天草の“のさり”を融合させるに至った経緯ですが、オレオレ詐欺の物語の構想が以前から監督の中にあったのでしょうか?

山本起也監督
元々このストーリー考えたのは2014年の佐村河内守問題からなんです。耳が聞こえない作曲家に皆が感動していたら、新垣さんが登場して「実はゴーストライターです」となって皆が怒り出した。だけど僕からすると、何で皆そんなに怒るのか不思議な感じがして。「(いい曲を聴かせてもらって)一時でも良い夢見させてもらったなあ」って何で思わないんだろう、って。

同じ頃から、スマホからの情報に支持されるかのごとく、右行け左行けとか、あそこの店は美味い不味いとか星幾つとか…一体僕たちは何をやっているんだと。僕たちは世界を「感じて」いるだけなのに。目で見たり、耳で聞いたり触ったり、世界は僕が感じる世界でしかない。皆世界を感じながら生きている。それなのに、そこに絶対的な世界があるかのごとく、ケータイからの情報に右往左往している僕らは何なんだ、と。そんな気分がこの映画のスタートです。

―― なるほど。劇中で藤原さん演じる若者はお婆ちゃんにケータイをしまわれてしまうわけですが、それが戻ってもケータイを見ないですよね。しかも、しまわれてから彼はちょっと豊かになっていくような印象さえありました。

山本起也監督
そこを観ていただければ嬉しいですね。確かに、ケータイが戻ってからも彼は1回もそれを触らないし、唯一教会の前でちょっと写真を撮ろうとするんですが、途中でそれを止める。写真に撮るのではなく、自分の見たイメージを大事にしようというか、彼自身が自分で世界を感じる風に変わっていくのは確かに意識しました。

でも、オレオレ詐欺を主人公としたせいもあってか、中々企画は動かなくて。そのうちに、プロのスタッフと京都芸術大学の学生が共同で作る「北白川派」プロジェクトの第7弾を僕が撮るという流れになって。本作プロデューサーでもある、京都芸術大学副学長の小山薫堂さんが熊本県出身なので、熊本県庁に相談へ行って「シャッター商店街を舞台にしたオレオレ詐欺の映画の撮影場所を探しています」と言ったら、「薫堂さんの故郷の天草にシャッター商店街がありますよ」と教えてもらって。それで初めて天草を訪れ、映画の舞台となる銀天街に出会いました。

そこで薫堂さんが天草の方々を集めて下さり、「山本さん、どんな話なのか天草の皆さんに話して」って。嫌な顔されるかなと思いながら、「オレオレ男が来て、婆ちゃんが騙されたと思ったら、なぜか本当の孫だと思い込んじゃって。風呂を入れたり、ご飯作ってくれるもんだからその男も居ついちゃう話です」って言ったら、天草の人がニコニコしながら聞いてるんです。

話が終わった後にある男性が「監督、その話天草だとあるかもしれんばい。そういうお婆ちゃん天草に居るよ。オレオレ男が来てもこれ食べなさいとか、そういうお婆ちゃんイッパイいるよ」って言われた時に、ここで撮ったらこの嘘話は自分の中で嘘でなくなるかもしれない、と思っちゃったんです。僕らが撮るのは所詮嘘話なんですけど、どこかでそれを信じたいというか。単なる撮影場所として天草をお借りするんじゃなくて、映画の方から天草に寄って行き、そこにあるものを取り込んで撮ることで、“この話、本当にあるかもしれない”って僕自身が思えるんじゃないか。そこからリサーチを始め、天草に取材して台本を作っていきました。

映画のさりの島

“のさり”は水俣病の語り部お婆ちゃんの言葉から

―― 天草の方々の言葉によって、オレオレ男と天草が結びつき、さらにフィクションだけどフィクションではなくなる期待を抱かれたのですね。“のさり”もその流れで繋がったのですか?

山本起也監督
のさりという言葉を知ったのは、水俣病における石牟礼道子さんを巡る記述の中です。水俣病の患者さんたちは、最初はチッソ(株)と激しい闘争をするんですけど、晩年に心境が変わってくるんです。“人を憎み続けるのも辛か”って。その背後には、水俣や八代の辺りの“のさり”の精神性があったんじゃないかっていうのを、本で読んでたんです。杉本さんという有名な語り部のお婆ちゃんが「自分は水俣病にのさった」と仰るんですね。つまり、「水俣病でお気の毒ね」って言われるけど、「水俣病があったから私の人生は豊かになった。色んな人と出会い、人の温みを水俣病のお陰で知ることが出来た。私は水俣病にのさった」って仰るんです。

そんな、気になる言葉ではあったんですけど、この映画のタイトルを考えて下さったのは小山薫堂さんです。最初のタイトルは「婆ちゃんオレオレ」でした(笑)台本の入稿の直前に「『のさりの島』ってどう?」って薫堂さんからメールが来て、タイトルが決まりました。でも、今にして思えば、タイトルが持つ本当の意味を僕自身が分ってなかったんです。

“ああ、そういうことか。”ってやっと感じたのは、映画の完成後のコロナによる上映の延期期間中です。コロナによる上映延期って、それはそれですごいダメージだったんですけど、僕にとってみると、この映画が持つものを映画の方から逆に教わる時間でもあった。自分で撮った映画なのに。その時に“ハッ”と思ったんです。“あっ、この映画は「のさってる人たちの話」を撮ったんだ”って。

のさりの島,山本起也監督

つまり、このお婆ちゃんの過去の辛い経験も一つの“のさり”かもしれない。そこに孫を名乗って若い男がやって来たのもまた“のさり”だったんだと思います。一方、この男にしてみたら、金をせびりに行ったら孫にされちゃった。多分今までの人生で感じたことがない気分になったという意味ではまさに彼はお婆ちゃんに“のさった”んだと思います。この時初めて『のさりの島』というタイトルを小山薫堂さんが付けた真意が分かって、“やっぱり、これは凄いタイトルだな”と。

良いとか悪いとか、勝ったとか負けたとか、ヤッターとかガックリとか、そういうマルかバツかみたいな事ではなくて、この映画は人をジャッジしない。良いとか悪いとかじゃなく、自分が信じたものが世界なんだ。これこそが“のさり”なんだと思うんです。それがこの間やっと分かって、それで腑に落ちたっていうか、そういう映画を撮ったんだなって。
映画のさりの島

コロナで認識した本作の価値

―― 店に置かれた自動精算箱について、お婆ちゃんが男に「誰かにお金を取られたとしても、その人にとっては必要だったんじゃないの?」みたいな話をされました。人と人の出会いも同じで、お婆ちゃんと男が出会ったのもいわば必要だった、偶然だけど必然だったみたいな。まさに“のさり”を表現しているようなシーンだったので、監督の狙いが込められたシーンなのかなと感じました。

山本起也監督
お金を盗まれたら普通はアンラッキー。それを「おう、のさっとるね」って言うと、アンラッキーってジャッジじゃなくなるんです。起きた出来事を幸運とか不運とか、ツイてるとかツイてないとか、自分の尺度でプラス・マイナスを判断するんじゃなくて、大いなるものの中で、転んだりまた起き上がったり、あるいはスラれたりお金拾ったりとか、そういう出来事すべてを「のさってるね」と言う。

そう考えていくと、これコロナの前に撮った映画ですけど、この映画を撮ったのはまさに必然だったのかと。コロナの一番厄介なところは、直接触れ合って感染するから距離を取る、みたいな物理的距離を遠くしたという事じゃなくて、人間の心の距離が物凄く遠くなってしまった。自分の正義を尺度としてその人を裁く事で、人の心の距離を遠ざけてしまったというのが、コロナの一番厄介なところだと思っているんです。

それに対して“のさり”は、自分が正しくてお前が間違っているとか、自分は自粛する時にお前は自粛しないで出歩いてるの?みたいな感覚とは真逆の概念。「店がのさっちゃって大変なんだよ…」もアリだし「給付金もらってあんたのさっとるね!」もアリ(笑)。

今の人と人との距離みたいなものも、何かそういう心持ちで捉えていくと、変わってくるんじゃないか。全てを「のさっとるね」と受け止める事で、大きく世界の感じ方が違ってきて、それはやっぱりその人の豊かさみたいなものと繋がってくると思うんです。

自動精算箱も「売上が少ないことはないけれど多いことはある」。オレオレ男の基準からするとよく分からない。彼にとってみればあんなの置いておいたら中からお金を盗まれるっていう基準しかない。人の金を盗んだり騙したりして生きてきた彼にとってみれば、“お婆ちゃんのこの心持ちって一体何なんだろう?”って衝撃だったと思うんです。今まで生きてきた彼の価値観の中の何かが大きく変わる、とても大事なシーンではありますよね。

勿論、今のコロナの状況では、そんなのんきな事言ってられない、うちの店は今日潰れるか明日潰れるかみたいな厳しい状況の方もたくさんおられるでしょう。映画は大した事はできませんが、少なくともこういう映画を観た後に少し心持ちが穏やかになってくださるのであれば、今、こういう映画を上映するのもちょっといいのかなって。そんなことまで計算して作ったわけではないんですが。

コロナにこの映画の価値を認識させられた。そういう意味では“僕はコロナにのさったんだな”って。ユーロスペースの初日も、緊急事態宣言にかかってどうなっちゃうんだろう?みたいな状況ですけれど、初日がどうなるか、お客さんも半分しか入れないしああどうしよう…みたいな、そこだけ見てると辛いばっかじゃないですか。でも、そこに「のさり」という感覚を引き込む事で、世界の感じ方が変わるという事を、自分自身がこの映画から逆に教えられている。だからこそ不思議な気分です。

『のさりの島』予告編映像

キャスト

藤原季節 原知佐子 
杉原亜実 中田茉奈実 宮本伊織 西野光 小倉綾乃 水上竜士 野呂圭介 外波山文明 吉澤健 柄本明

監督・脚本

山本起也

プロデューサー

小山薫堂

2020年/ DCP/5.1ch/129分/ビスタサイズ/日本

配給:株式会社北白川派
公式HP:https://www.nosarinoshima.com
©北白川派
映画のさりの島

2021/5/29(土)よりユーロスペース他全国順次公開!

友だち追加

コメント

注目映画

  1. 37セカンズ
    第69 回ベルリン国際映画祭 史上初の2冠! 映画『37セカンズ』 ■イントロダクション ベル…
  2. ⾝⻑差 15 メートルの恋 コミック『⼈形の国』『BLAME!』など、世界各国から⾼い評価を受けて…
  3. ヴァイオレット・エヴァーガーデン,画像
    心を揺さぶる物語、 心に響く音楽、 心に残るアニメーション。 映画『劇場版 ヴァイオレット・エ…
  4. ミッドナイトスワン,画像
    片隅に追いやられて生きてきた二人が出会ったとき、命がけの愛が始まる 切なき疑似母子(おやこ)のラブ…
  5. 海辺の彼女たち,画像
    サンセバスチャン国際映画祭、東京国際映画祭で賞賛! 圧巻のリアリズムで描く、在日ベトナム人女性の覚…
  6. 中国映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』,画像
    中国新世代の才能が描く驚嘆の傑作 2021年大注目作品誕生!! 長編第一作でありながら、2019…
  7. ヤクザと家族 The Family,画像
    日本アカデミー賞6冠『新聞記者』のスタッフが再び集結して挑むテーマは「ヤクザ」 変わりゆく時代の中…

“音楽は私の居場所”

シンガーソングライター 西山小雨さん 動画インタビュー

映画『無限ファンデーション』主題歌「未来へ」曲集

ページ上部へ戻る