藤原季節&原知佐子の絶妙な掛け合いを徹底解説!『のさりの島』山本起也監督インタビュー

『のさりの島』山本起也監督

『のさりの島』山本起也監督インタビュー
【後編】※ネタバレあり

ユーロスペースほか全国順次公開中の映画『のさりの島。何と言っても本作の見所は、藤原季節さん演じるオレオレ男と、その男を孫と勘違いして一緒に生活し始める原知佐子さん演じる艶子お婆ちゃんとの絶妙な掛け合い!

山本起也監督へのインタビュー後編では、藤原さんと原さんを中心に撮影現場でのエピソードを披露していただきました。内容にも触れていますので、ネタバレが気になる方は是非作品をご覧になってから読んでください!

【前編】山本起也監督「コロナにこの映画の価値を認識させられた」映画誕生までの物語!

『のさりの島』山本起也監督

『のさりの島』撮影を振り返る山本起也監督

―― 最初は受け子としてお婆ちゃんの前に現れる男は、やがて孫の将太であることを受け入れていきます。一方のお婆ちゃんも、男からの電話には騙さるのに、男にかかってきた仲間からの電話はハッキリと断っていました。その時々のお互いの感情がどういう状況なのか、バレてるのかバレていないのか、ある意味曖昧なので振り返ってみると凄く面白いんです。藤原さんや原さんには監督からその都度設定についての説明はされていたのでしょうか?

山本起也監督
お婆ちゃんが「ここは分かっている」「分かってない」とか、そういう説明は原さんにはしてないと思います。「どっちなんですかね?ボケてるんですかね?それとも、分かってるんですかね?原さんはどう思います?」みたいなことは言ったと思います。でも、「ここはボケているように」とか、そういう指示めいたことはしなかったんじゃないですかね。

―― 原さんが演じている艶子はドキュメンタリーを観ているような感じで、方言も凄く自然ですし天草出身の方なのかなって。

映画のさりの島

山本起也監督
実は現場で原さんは大変だったんです。おそらくご本人は台詞が頭に入っていてパっと出てくると思っていたんでしょうけど、全く出てこない。初日の午前中は結局OKがワンカットも出なかったんです。

でも、休憩を挟み、午後に「もう1回やってみましょう」って始めたら、映画の中の艶子さんになっていたんです。1時間の昼休みで修正してきた。その修正力に僕がたまげたというか、こういうことあるんだなって。そこからはみなさんがご覧になった艶子さんです。

後から話を聞いてみると、原さんは台本の設定とか状況を所々勘違いしてたようです。それを僕は知らなくて。ただ、目の前の原さんだけを見て、OKを出していました。そこでくどくど設定を説明したら、原さんももっと作って演じたと思うのですが、原さんが勘違いしている部分が、逆にこのお婆ちゃんボケてるのか?何なのか?みたいなニュアンスに繋がったのかなって(笑)「エッ、そんな風に思ってやってたんですか?参ったなぁ。でも、僕にはこう見えたんだからそれでいっか」みたいな感じです。

―― まさしく狙って出来るものではないように感じたので、どういう演出だったのか聞きたかったんです。

山本起也監督
説明をすると俳優さんはそういう「振り」をし始めるじゃないですか。振りをされても困るわけであって、その人になってもらわなければいけないので。原さんは、初日の午前中「振りをしてる人」だったのが、午後になったらその人になった。

―― 艶子の掴みどころのない感じが本作の大きな魅力になっているように感じました。ちなみに、一番好きなシーンはサイダーとアイスクリームのシーンです。この二人の出会いを考えれば、想像できないような瞬間ですが、あのシーンを振り返っていただけますか?

映画のさりの島

山本起也監督
ただ一緒にサイダー飲んだり、お灸したり、ご飯食べたり、洗濯物干したりっていう、それだけの話ですよ。だからこのシーンも、サイダーも飲みながらオリンピックの話をしてくれればいいというぐらいです。でも、サイダー飲んでる二人がいいんです。嘘のお婆ちゃんと孫なのにね。あんまりいいんで、ついつい見ちゃう。それで僕がOKをかけなかったんです。もうちょっと見ていたいと思っちゃったんですかね。

藤原さんはどう思ったか分からないです“あれっ、監督カットかけないなぁ”と思ったかどうか。でも、そこが彼の凄いところで、一瞬“あれっ”って思ったかもしれないけど、次の瞬間お婆ちゃんに「もうちょっとアイスちょうだい」って言ったんです。

瞬時に“ヒュッ”と出した。それを受けた原さんが、「もうちょっと?」と返すと、藤原さんが「もういい」って。ここまで見ることができて僕はすごく満足して、「カット!」をかけました。結果、編集で全部使いました。

―― 演技を超えた二人の時間があったからこそ、シーンが続いていったのですね。

山本起也監督
もちろん、演技をしてるっていう意識もあるんでしょうけれど、そこで感じた感情、感覚を藤原さんが返して、それに対して原さんが返してっていう、演技と言いながら演技でないような、すれすれのところでのキャッチボールを、僕はニヤニヤしながら見てました。

―― もう一つ、男がヒロインである地元のラジオパーソナリティの清らと「2日後また会おうね」って別れた後。お婆ちゃんの待つ店に帰った時に、嬉しそうにニコッて「ただいま」を言いながら「シャッター閉めようか?」っていうシーンがあります。段々と、艶子との関係を楽しんでいるように感じたのですが、彼は楽しんでいませんでしたか?(笑)

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山本起也監督
あの男自身、お婆ちゃんとの嘘であるはずの関係が、いつしか楽しくなったんでしょうね。でも、そんなことずっと続くわけはない。いつかは終わるという予感があるからこそ、あそこは楽しくなってくれる分にはいいなと思いながら。そうすれば、後が切なくなるわけですから。

藤原さんが凄いのは、お婆ちゃんがシャッターの棒を渡そうとしたらそれを使わず手でひょいと下ろした。そんな、ほんの些細な動きで、言葉にできない滋味を表現しているんですね。あれも彼のアドリブです。“おー!そうするんだぁ”って思いながら、僕は彼のアイディアをありがたくいただきました。

―― 台本上、シャッターを下ろすシーンではあったのですよね?

山本起也監督
はい、棒で閉めるはずが、彼が“ひょい”ってやった。そういうところが藤原季節という人は感が冴えてるというか、彼のアイディアが楽しくて、いつもニヤニヤしながら「はい、OK!」って(笑)

俳優さん自身もそんないいリズムが出てくると、いつの間にかそこにいる男やお婆ちゃんになっているんですね。僕はそれを楽しみながら見ているみたいな。そんな現場でしたね。

―― 棒をお婆ちゃんに取らせるのがまたいいですよね。

山本起也監督
もしかしたら彼は、棒で閉めるつもりでそれをお婆ちゃんから受け取ろうとした瞬間、フッと閃いたのかもしれません。本当に色々な引き出しを持っているんです、藤原季節という俳優は。

―― 音楽についてもお聞きしたいのですが、第一印象として音楽が少ないと感じました。その中に流れる天草の海の風の音やシャッター通りに流れる音によって天草に居るような感覚になりました。そして、ブルースハープの音が流れるので、あれがまた凄く印象に残ります。だた、誰もが知るような曲ではないので、感情を操るところまでには至らず、自然に心地よい音として受け止めることができました。音響については、監督のこだわりや谷川さんとの決め事があったのでしょうか?

山本起也監督
谷川さんはなかなか音楽を付けてくれないんです(笑)僕が言うと「いらない」って。

「音楽も登場人物だし、音も登場人物。だから音の登場人物がちゃんと表現しているところに何で音楽の登場人物が必要なの?」谷川さんの言わんとすることを僕なりに言うとそんな感じでしょうか。BGMっていう感覚ではないんですよね。この曲は何がテーマかっていうことがあって、そのテーマが必要なところでちゃんと聞こえてくる。どこでそれが必要かを決めたのはほとんど谷川さんです。

後、「音」や「波動」の映画にしたいというのは最初からあったんです。ラジオパーソナリティーの清ら(役:杉原亜実さん)は、「トランプさんがメキシコの国境に壁を作ってどうの…」みたいなニュースを読むのを途中で止めて、自分の好きな詩の朗読を始めてしまい、「ニュースでそれは放送事故だ」って上司に怒られるっていう設定だったんです。つまり、彼女は波動を届ける人なわけです。届けるなら、それはいい波動でありたい。そう思っているんですね。

でも、その設定はちょっと狙い過ぎだからやめにしました。ただ、お互いが面と向かっての直接的な関係だけでこの世界は出来てなくて、自分が発したものが全然自分が知らないところで誰かの何かを揺するみたいな関係性もあると思うんです。パーソナリティーの発した声が、誰がどこで聞いているのかは手応えとしては感じられないけれど、時々「聞いてます」っていうお便りが届いて、“こういう人が聞いてくれているんだぁ”ってそこで初めて感じる。一方通行の音だけど、私が今発したものは、いつか地球の裏側の葉っぱを揺らすみたいな、そういう世界を表現したいっていうのはあったんです。

映画のさりの島

ブルースハープにしても、久美子(役:小倉綾乃さん)はただ吹いているだけ。でも、お婆ちゃんは毎日店をしまいながらお金を勘定してるとその音が聴こえてくる。つまり、ブルースハープの音は彼女の日課になっている。しかし久美子はそんなことは全く知らない。最後に買い物に来て「ブルースハープをください」って言った時に、このお婆ちゃんが日課として自分の吹いた音を聴いてるなんて全く知らないわけです。

こういう関係って素敵だなと思うんです。どこかで誰かがそれを支えにしていたり、どこかで誰かのところに届いているんだけれど、発している本人は知らないとか、そういう関係性って、とても豊かだと思うんですね。

―― 注文を受けた時のお婆ちゃんの姿がまたいいですよね。

『のさりの島』山本起也監督

山本起也監督
あれをラストカットにするつもりはなかったんですけど、撮っている時に「これがラストカットだ!」と思って。物凄く感動したんです。「このお婆ちゃん、あなたのリスナーよ、あなた知らないけど、毎晩このお婆ちゃんあなたの音を聴きながら一日を終わるのよ」でも多分、この映画が終わった後も、お婆ちゃんは「あなたの曲を毎晩聴いてるよ」なんて言わない。そこが素敵。映画の中で全く出会わなかった二人の、なんて素敵な出会いなんだ!これがこの映画の全てだと思いました。

こういう関係があってもいいじゃないか。こうした関係やその時の心持ちが、この世界を支え、豊かにしている。直接的な関係だけではない。離れていても、お互いが共鳴し合ったり、響き合ったりしている。それこそ“のさり”ですよね。

―― 最後に映画ファンにメッセージをお願いします。

山本起也監督
良いことも「のさっとるばい」。それとは真逆の不運なことも「のさっとる」。この感覚が、人が人を裁くような今の世界の後にくる人間の「哲学」というか、次に必要な「思想」だと思ってます。「思想」っていうと固いですけど、人が人を裁く時代に、全て「のさっとる」と受け入れることで、大きな心持ちになれるんですね。そんな『のさりの島』を是非感じて欲しいですね。そういうことを計算しながら撮った映画じゃないだけに、僕も『のさりの島』も「コロナにのさったんだな」って思います(笑)。

こういう社会をくぐり抜けた我々が、古くからあった言葉に含まれる大切な感覚を知る。この映画を観て映画館を出た人が穏やかになってくれれば嬉しいです。

『のさりの島』予告編映像

キャスト

藤原季節 原知佐子 
杉原亜実 中田茉奈実 宮本伊織 西野光 小倉綾乃 水上竜士 野呂圭介 外波山文明 吉澤健 柄本明

監督・脚本

山本起也

プロデューサー

小山薫堂

2020年/ DCP/5.1ch/129分/ビスタサイズ/日本

配給:株式会社北白川派
公式HP:https://www.nosarinoshima.com
©北白川派
映画のさりの島

2021/5/29(土)よりユーロスペース他全国順次公開!

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