『トゥルーノース』清水監督「人間の素晴らしさも怖さも描きたかった」北朝鮮強制収容所を舞台に極限状態の中で生きる人々の“恐ろしさ”と“可能性”を問う

アニメーション映画『トゥルーノース』清水ハン栄治監督

アニメーション映画『トゥルーノース』
清水ハン栄治監督インタビュー

アヌシー国際アニメーション映画祭「長編コントルシャン部門」にノミネートされたほか、ワルシャワ国際映画祭・審査員特別賞、ナッシュビル映画祭・長編アニメ部門グランプリ、プチョン国際アニメーション映画祭長編部門特別賞を受賞するなど海外の映画祭を席捲している映画『トゥルーノースが、ついに6月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開されます。

過酷な状況に思わず涙が出てくるようなシーンもありながら、憤りを感じたり、得体の知れない脱力感、段々と義憤する感情も抱いた本作。このような実態が現実であり、真実の物語としてこの世の中のどこかで起きているんだということに言葉が見当たりません。では、その現実に対して、私たちは自分毎としてどのように受け止めることが出来るのでしょうか?観客に様々な示唆を与えてくれる傑作の誕生です!

今回は、清水ハン栄治監督に3Dアニメーション長編映画として本作が誕生した経緯や監督が本作に込めた想いを伺いました!

【動画】清水ハン栄治監督メッセージ

映画『トゥルーノース』清水ハン栄治監督と直接語れるオンラインイベント開催が決定!実施日、参加方法は後日公式HP、SNSにて発表します。

―― 北朝鮮の現実を描くとともに、ヨハンの心も描かれています。人間とは何か?みたいなところも深く突き詰めていて、背景としては北朝鮮の物語ですけれども、やはり一人の人間の真実を掴みに行くような監督の意図を感じました。まず、この作品を作るにあたっての監督の意図をお聞きしたいです。

清水ハン栄治監督
三つの意味を込めたタイトルの『トゥルーノース』についてお話すると分かりやすいと思います。

一つ目は、真実の北朝鮮。要するに収容所の壁の内側で起こっている人権蹂躙(じんけんじゅうりん)の話です。

二つ目は、北朝鮮の人々の話です。とかく、北朝鮮の人は洗脳されていて、名前も顔も見えない人たちみたいなイメージを思いがちなんですが、リサーチをする中で脱北された方々を知っていくと、我々と全く同じで、賢いし、優しいし、面白いし、仕事もいっぱいするし、何ら変わらない人達なんです。でも、今いる環境の中で大変な思いをされている。そういった隣人を表す意味での『トゥルー・ノース・コリアン・ピープル』です。

三つ目が回答としてドンピシャなのかもしれませんが、英語の慣用句で「トゥルーノース」は「人生の羅針盤」みたいな意味があるんです。多分、カナダ国歌の中でも「トゥルーノース」という言葉が出て来ると思うんですけども、人間として生きていて絶対に譲れない、目指す方向性。羅針盤はどこにいても必ず北を目指すじゃないですか。人間が本来目指すべきことや生き方、生きる目的を深堀りしたくて、ヨハンの成長記でもあるんですけど、そのような意味をタイトル『トゥルーノース』に込めました。

―― 本作のお母さんや妹を観ていると、女性は体制に属し難い分、体制を利用して生きていくといった手段に乏しい。一方で、男はある体制に属すれば家族を守り、自分を守ることも出来る、そういう誘惑に駆られやすい存在。だからこそ、母と妹は純粋に人としての道を息子・兄に伝えることが出来た。一方でヨハンは、悩んだ時に体制に身を委ねて過ちを犯してしまう。掘り下げていくと、北朝鮮に関わらず男社会の側面も見えてくると感じました。

清水ハン栄治監督
特に男女の差は意識したつもりはなかったんですけど、究極の場所で人間がどう生きるかは凄く興味を持っています。

実は、ホロコーストの中で生き延びたユダヤ人の心理学者ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」という本にインスピレーションを受けています。ユダヤ人なので収容所に送られて、奥さんもお母さんも別々に離されて殺されてしまうという散々な体験をされた方です。ヴィクトールさん自身も生きるか生き延びないかという中で、彼は考え方を変えたんです。心理学を教えている人間として、こんな究極な環境で人が何を考え、どういう行動をするのかをオブザーブ出来る絶好のチャンスだと。それで色んな人の行動や思考を観察したんです。

彼から僕が感銘を受けたのが、例えば、究極の環境で自分がお腹を減らしていて、隣にパンを食べている同じ収容所の子どもがいるとします。よく見たら、その子どもの親も周りにいません。自分が飢え死にしそうな段階なので、その子どもをぶん殴って盗んでパンを食べちゃう奴がいる。それって子どもは死んじゃうのに鬼の所業じゃないですか。だけども、一方で仲間が氷の張った湖に落ちて溺れてたら、命を投げ打って飛び込んで助ける奴もいる。実はその二人の天使みたいな人と悪魔みたいな人は、普通の状況だと結構同じ人が同じ行動をする、という分析です。

それを聞いてよくよく自分のことを分析してみると、もし腹が減ってて親も見ていないんだったら、「この糞ガキ!俺にパンよこせ!」ってぶん殴って食べちゃう自分って、全然あり得るんです。一方で、自分の友達が本当に苦しんで氷の中でもがいていたら、飛び込んで助けちゃう自分もいるんです。

つまり、状況が状況なら、僕自身が悪魔にもなるし天使にもなれるんです。その振れ幅って実は人間のポテンシャルだと思う。僕自身そんなにいい奴でもないし悪い奴でもないんですよ。世の中の人のほとんどがそこでうごめいている中で、どうやって良い行動を習慣づけてパターンにしていくか。人間の素晴らしさも怖さも描きたかったので、色んなキャラクターを登場させました。良い行動に行く奴もいれば、悪い行動に行く奴もいる。主人公のヨハンは最終的には良い方に行く。兵士のリーは、どんどんあっちの悪い方に行ってしまう。その部分のヒューマニティを作品に込めたかったんです。


―― 私も今監督から聞いていて悪い人と良い人の分け方ではなく、人間は両面を持っている。その中で、どう人として生きていくべきなのか、もしくは生きようと思えるのか、生きたいのか。そういうところに道筋を見つけた時に、ようやくしっかりと歩みを踏んでいる自覚が出来るのかなと思いました。ところで、犯罪に対する「罰の定義」についてはある程度各国の背景があるにせよ、「罪に対する定義」が違いすぎるのはちょっと問題だと思っています。そういう意味では、北朝鮮の強制収容所に入れられている人たちがなぜ入れられているのかが分からないこと自体、非常に問題があると思います。「罪に対する定義」が現代においても地球上でバラバラになっている状態について監督はどう思われますか?

清水ハン栄治監督
色んな国の事情があるから、政治的なことはどれが正解か分からないところってあると思うんですけど、こと人権に関しては、やっぱり普遍的なものがあると思っています。当然、文化とか国によって差異はあると思うんですけど、例えば、物心つかないような子どもが、生きるか死ぬか飢え死にするかしないかのレベルで強制的に働かされている。それは、どの宗教、文化、法律に照らし合わせてもおかしなことなので、それをおかしくないという体制があるんだったら、僕は絶対の自信を持って「違っている」と言いたいんです。

―― 監督自身のことも教えていただきたいのですが、前回はプロデューサーとして4年間ドキュメンタリー『happy-しあわせを探すあなたへ』を撮影されていました。本作では、アニメーションで、且つ2Dではなく3Dです。アニメーターネットワークはいつ頃からスタートされて、今回なぜ3Dアニメーションだったのでしょうか?

清水ハン栄治監督
アニメでやりたいというのは比較的早く決まっていました。というのは、収容所内の現状を聞くと、ちょっと描写出来ないぐらいの残酷さなんです。そのままドキュメンタリーでやっても実写でやっても酷すぎちゃってホラー映画みたいになっちゃう。ホラー映画みたいになると観客がトラウマになって感情的に塞いでしまうことが結構あるんです。

この映画を作る目的は、世界中の多くの人にリーチして、その人たちに声を挙げてもらいたかったので、感情的にシャットダウンされると困っちゃうんです。そうすると、ちょっとデフォルメする必要がある。デフォルメしすぎて漫画みたいになっちゃうと、逆に宇宙で起こってる話みたいな、あまりにも浮世離れしてるので、アニメだとちょうど良いバランス感がとりやすいのでアニメを採用しました。

3Dについては、元々僕は2Dも3Dもアニメを作ったことがないんです。だけども、このプロジェクトを立ち上げてアニメが上手く創れるインドネシアのアニメーター達に出会いました。

日本は2Dアニメが進んでいますけど、世界中のクリエイターを見渡すとソフトウエアや技術が発達しているので、いわゆるインドネシアみたいな新興国でも、コンピュータさえ使えて才能があれば、凄く良いクオリティーのものを創れる人たちが続出してきているんです。

今回、2Dではなく3DCGで良かったと感じるのは、僕みたいにアニメの経験のない人間は、ビジョンに基づいた正解を知らないということです。何回もやってみて、「これはちょっと角度がダメだから、こちらからやろうよ」とか「この間隔がちょっとウザいから、もうちょっと速めようよ」とか。そうすると何回も撮り直して、ビルドアンドスクラップ出来ることが必要で、3Dアニメはバーチャルでありながらも一度造形をしたら、造形のキャラクターを何百回も歩かせて、角度を変えて、カメラや照明の位置を変えることが何回でもやれるんです。その試行錯誤がしやすいことが、僕に凄くマッチしたと思っています。

―― 本作を拝見すると監督には映画監督の顔と別に人権に対する活動などの顔も持っていらっしゃるんじゃないかと思いました。映画を含めてになると思いますが、監督はどのような活動をされているのですか?

清水ハン栄治監督
自分を人権活動家とは思っていなくて、たまたま素材として人権蹂躙の話に巡り会って、それを易しく分かりやすく伝えていく人間だと思っています。

違う角度から言うと、僕も皆さんと同じようにシンプルにより幸せになりたい人間なんですよね。幸せになるために、美味しい物を食べたし、恋もいっぱいしたし、南国に住んでみたし、仕事でお金を儲けたし、瞑想をしてみたり色々なことをやりました。しまいには幸せに関するドキュメンタリー映画まで撮りました(笑)。

確実に幸せになれている実感があるんですけど、まだ幸せには伸びしろがいっぱいあるんです。スピリチュアルな世界に行くとかじゃなくて、実社会に住みながら輝いている人がいっぱいいる。そういう人たちを見ると、僕がやってきたこともやってるし、やってない人もいる。だけど、心理学者マズローのピラミッドのてっぺんにいる人たちは、やはり自分より大きなものと繋がっている。それが色んな人を助けたり、困っている人に手を差し伸べたり、いわゆるインパクトを作っている人たちなんです。僕ももっと幸せになりたいので、こういったヒューマニティに対するサービスをすることによって繋がると思ったんです。利他を介した利己の追求ですね。

この映画は、12万人が収容されている北朝鮮の強制収容所の話ですけれども、ある意味彼らの幸せと繋がっている。ちっぽけなインディーズ映画が、彼らの一つの公開処刑を取り除いたり、一つの暴力を取り除いたり、一つの拷問を取り除くだけで、メチャクチャ自分の幸せに繋がっていくんです。格好つけているわけじゃなくて、それって自分という個体を越えた幸せの受け皿が出来たことなので、スゴイ幸せなプロジェクトに携わらせてもらっていると感じます。

―― 「個体を越えた幸せの受け皿が出来ている」というのはとても良い表現ですね。
監督が本当に辛い思いをしている人や孤独でもう耐えられない状況になっている人に対して、幸せを感じてもらうためにどういう言葉をかけていただけますか?

清水ハン栄治監督
やっぱりまさにコロナのど真ん中にいて、皆さん人生が大変だと思うんです。中には心が折れちゃう人もいるし、家族や知り合いを亡くした人もいるし、仕事を失った人もいると思います。

同情しつつ、だけども、これは僕が尊敬するダライ・ラマ法王の言葉なんですけど「Pain is inevitable. Suffering is optional」と言ったんです。「痛みは避けられない。だけど、苦しむのはオプションだよ」って。

人生は皆楽じゃないから、色んなことが起こります。良いことも悪いことも。悪いことは、痛み、Painです。その痛みはメチャメチャ痛いかもしれないけど、その痛みを苦しみに変えるのは結構我々に選択肢がある。苦しみを何回も反芻してどれだけ苦しいんだとか、俺は何であの時あんなこと言っちゃったんだ、何でコロナなんて始まったんだ、アイツがあれをやったからおかしいとかって後悔していって、本来はこういったプランだったのにチクショウ!みたいなことでその苦しみをぶり返す。

だけど、その事実を痛いけど何回も繰り返してぶり返して苦しみに変えてしまうことは、我々が思考パターンを鍛えていけば、僕自身もそれで救われたことがあるんですけど、そこから離すことは出来るんですね。

後、レジリエンスの観点で言うと、伝記漫画を出版していたことがあるんです。例えば、ガンジーとかマザー・テレサとかダライ・ラマとか。彼らの人生を漫画化して世界中で展開していた中で、もっとシリーズを増やしたかったので、いわゆるスーパーヒーローたちの人生を「次は誰にしようか」と調べていきました。

そうすると面白いことに気付いて、絶対に良い偉人伝にならない素材があるんです。それは何かというと、イージーライフなんです。要は何も問題がなくて、全てが整っている人生を偉人漫画にしても面白くも何ともないんです。

名立たる偉人をスーパーヒーローにし、読み応えのある人生にしたのは、もちろんピークもあるけど必ず問題にぶつかって落ち込むんです。ガンジーだったら独立運動、ダライ・ラマだとチベットに共産党が軍事介入してきたとか。そういうどうしようもない時に、大ピンチの時にどう立ち上がるか。頭脳を使ったり、優しい心を使ったり、仲間を導いたり、組織力を使ったりとか、立ち上がり方は色々あるにせよ落ち込んだ時に何を武器としてどういう風に立ち上がるか。そこに人が魅せられると思うんです。

コロナで大打撃を受けている人もいると思います。だけども、それをあたかも伝記漫画を作っている人の視線で、「あっ、これは俺の人生の348ページだな。ここで主人公が腕まくりして、ヒーローになっていくんだな」って俯瞰的に見られると、コロナもきついけど「俺、そこから立ち上がるんだ!」という風にすると、面白いし、客観的に見られるんじゃないかなという風に思います。

―― 力が沸いてきますね。ありがとうございます!動画インタビューでは、監督から観客の皆さんへのメッセージも紹介していますので是非ご覧ください!

清水ハン栄治監督メッセージ!

声の出演

ジョエル・サットン
マイケル・ササキ
ブランディン・ステニス
エミリー・ヘレス

作品情報

監督・脚本・プロデューサー:清水ハン栄治(「happy – しあわせを探すあなたへ」プロデューサー)
制作総指揮:ハン・ソンゴン
制作:アンドレイ・プラタマ
音楽:マシュー・ワイルダー
配給:東映ビデオ
(C)2020 sumimasen
【94分 カラー 英語 日本語字幕 2020年日本/インドネシア】

6月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開!

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