映画『夏への扉 -キミのいる未来へ-』三木孝浩監督インタビュー
- 2021/6/16
- インタビュー, 映画監督
- 三木孝浩, 夏への扉 ーキミのいる未来へー
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今の時代に必要な“諦めない心”
1956 年にアメリカで発表されて以来、ハリウッド映画に多大な影響を与え、60 年以上経つ今でも色褪せぬ伝説の小説として世界中で愛される「夏への扉」(著:ロバート・A・ハインライン)を現代の日本を舞台に映画化するという高いハードルに挑んだのは、『フォルトゥナの瞳』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』をはじめ数々のヒット作を生み出してきた三木孝浩監督。

(写真)三木孝浩監督
今回は、約60年前に描かれた名作の映像化を見事に実現された三木監督に、原作の魅力をはじめ、山﨑賢人さん、清原果耶さん、藤木直人さんら豪華キャストのキャスティングや演出エピソードを伺いながら、本作に込めた制作チームの狙いを存分に語っていただきました!
今の時代に必要な“諦めない心”
―― ロマンスやSF、それから主人公の不幸な生い立ちも入っていて沢山の要素を投入していく必要があったと思いますが、制作に当たって監督は何をポイントにこの作品を作り上げようとされたのか、その辺のところをお聞かせください。
三木孝浩監督(以下、三木監督)
原作がある場合は、作者がこの物語で何を一番大事にしたのか、何を伝えたかったのかっていうところの核の部分を最初に脚本の菅野さんやプロデューサーと共有すること。そこがブレなければ真にこの作品が持ってる良さを伝えられるんじゃないかって常々思っています。
特に今回は、アメリカを舞台にした小説で、しかも書かれたのが1950年代。それを今の日本でどう映画化するのかということは、凄くチャレンジングな部分が沢山あったんです。でも、今読んでも凄くストーリーテリングが素晴らしいというか、本当にドキドキワクワク出来る作品だったので、全然色褪せない作品だなと思いました。
―― 監督が作品に出会って、その時の感じた面白さを映画に込めようというのが一つのポイントだったのですね。
三木監督
そうですね。今回、改めて「夏への扉」を読み直した時に、自分がそれこそ80年代にハリウッド映画のアトラクション・ムービーを観てワクワクしていたあの感覚が読後感にも凄く存在していて、自分もその気持ちを思い出して映画作りに入れば、お客さんにももう一度ああいう気持ちを楽しんでいただけるんじゃないかなって思いながら作ってました。
―― 三木監督は文学部出身の経歴をお持ちですが、監督がこの原作を読んで最初に感じたこと、物語の面白さをブレイクダウンしていくとどういう感覚をお持ちになられたのですか?
三木監督
最近のSF映画で未来を描いたものはディストピアが多いように思います。(この小説が)書かれたのが50年代っていうのもありますけど、何かワクワクする面白い未来になっていて。でも今は、それこそ鉄腕アトムだったりドラえもんが描いてきたものって、「そんなことないよね」ってどこか諦めてる感覚がある。この映画のタイトルが示してるんですけど、諦めない心、どこか困難にあっても苦しいことにあっても明るい未来を目指してもがくことが今の時代に必要なんじゃないかなって思います。
知られざる山﨑賢人の魅力とは?
―― 非常によく伝わってきました。“諦めない”というところが、一本の筋になっていて登場人物皆それぞれが“諦めない”という構図になっていたと感じました。キャスティングですが、山﨑賢人さんはどんな役柄もこなされる方だと思います。今回の宗一郎は、どういう宗一郎に作り上げようと思って山﨑さんと会話されたのか。その辺りを教えていただけますか?
三木監督
元々賢人くんの役者としての魅力というか彼の強さは、染まり過ぎないことだと思っていて。
毎回新しいキャラクターを演じる時に、真っ白なキャンバスで居られる強さ。それって実は凄く困難で、色んな役を経験してくると、ある程度の自分のスタイルだったり、ベースの色があってどう色を付けていくかって人がほとんどだと思うんです。賢人くんの場合は、一度それをゼロに出来る。それは意外と知られていない彼の強さだと思います。
彼も色んな主演作をこなしてきてますけど、今回の宗一郎がフレッシュに見えるっていうのは特に大事な要素でもあったし、それを観てる人が応援したくなるキャラクターを必要としていました。この人なら困難があってもすぐに乗り越えられるんでしょ?って感じにはならない(笑)傷ついて心折れそうになってるところで「頑張れ!」って思いたくなるような、賢人くんはそういうお芝居が出来るので。
―― 諦めない姿勢を信念のように徐々に強く描いていかれたのでしょうか、時間の経過とともにそれを感じました。監督のお言葉を借りると、癖の強い演技をされる方だと同じ癖がいろんな役にも全部共通して出ますけど、山﨑さんの場合はそれがないですよね。その辺りは監督としても助かったし、大いに利用させてもらったということですね。
三木監督
良い意味の青臭さじゃないですけど。「あー、自分もそうだったよな」と思わせてくれる、映画を観てる人が自分ゴト化出来る感じですね。若さゆえの心の迷いだったり、でも頑張ろうと思う気持ちに観る人がより添えるっていうのは、やっぱり彼の知られていない魅力なんじゃないかなと。
―― 上手くいきすぎて監督としてはお任せ出来る部分も多かったのかもしれませんが、山﨑さんと会話を重ねたポイントみたいなシーンはございましたか?
三木監督
時間軸が30年の時を越えるというところもありますし、シーンも順撮りではなかったりするので、このステータスで宗一郎がどう思ってるのか、このタイミングだと何を知っていて何を知らないのかの疑問点は逐一、賢人くんと擦り合わせていました。
お客さんが理解出来ている部分と、彼だけが分かっている部分。でも、ある程度進むとお客さんにもこれは何となく想像して欲しいなというバランスも考えました。あまり表情に出しすぎてもいけないですし。
一瞬で引き込む清原果耶の稀有な力
―― 結局、観る側と演じる側とのギャップですよね。そこを一番ポイントにされたんですね。次に清原果耶さんですけども、『宇宙でいちばん明るい屋根』の藤井監督にお話を伺ったところ、とても感受性が豊かで、こちらで指示しなくても自然なリアクションが画になる、凄い女優さんとお聞きしてるんですが、いかがでしたか?
三木監督
ある映画監督と「最近の十代の女優さん誰が気になる?」みたいな会話をしてた時に、お互い同時に出たのが清原果耶ちゃんだったんです。2人とも言ってたのは、オーディションに来た瞬間にもうこの子は空気が違うっていう感覚、一瞬にして目を引くものというかオーラが凄くあって、彼女の中には芯の強さというか、意志の強さを感じました。
―― それは映画の中でも感じました。最初は宗一郎に嫌われたくない、邪魔になるような存在でいたくない。そんな絶妙な距離感が保たれてるし、それでいて最後まで諦めない芯の強さを発揮しなきゃいけない。その辺りが観ていて自然に伝わってくるので、監督からはどんな演技上の指導というか会話、裏設定をされたのかなって思ったんです。
三木監督
山﨑賢人くんにもそうですけど、このキャラクターが物語においてどう変化していくのか、どういう役割を担ってほしいっていうのは作品に入る前にお手紙で渡すんです。
単純に自分が長々と口で説明しても忘れちゃうし、もう一回見直したりも出来るように文面に書いて渡したりするんです。それを凄く理解してくれて。特に璃子のキャラクターを前半短いシーンで観客にも宗一郎にもかけがえのない存在として記憶に残したかったんです。璃子の印象を失わずに物語を進めないといけないので、役者的には負荷がかかる所だと思うんです。
連綿とシーンを演じられるならその中でキャラクターに共感してもらったりはできるんですけど、それをあの短いシーンであれだけ表現出来るっていうのは、璃子に関しては清原果耶ちゃんの力だなと思いました。
でも、それは最初に清原果耶ちゃんに出ていただいた『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』で、小松菜奈ちゃん演じる愛美の中学生時代の役だったんですけど、あのワンシーンでグッと観てる側の心を掴むようなお芝居をしてくれたので、この一瞬にして引き込む力っていうのは本当に稀有な存在だと思ったので、今回は特に彼女のそういう力を借りたいなと思って起用しました。
―― 清原さんだったら出来る、と。
三木監督
はい、確信はありましたね。
ピートと藤木直人の共通性
―― ベタッとしない(宗一郎を)好きだという感じ、でしょうか。その辺の距離感も抜群でした。続いて、藤木さんは幾つか体を犠牲にするシーンがあったと思うんですけど、車にぶつかったところの不自然なぶつかり方とか(笑)、ロボット感が存分に発揮されていましたが、藤木さんも相当ハードルの高い役だったとのことですが、いかがでしたか?
三木監督
「僕大丈夫ですか?」って衣装合わせの時は心配そうにされていました(笑)
現場に入ったらもう全然心配なかったですね。アンドロイドやヒューマノイドが出てくる映画って昨今沢山ありますけど、どういうバランスでそれを表現するのかを、アンドロイドパフォーマーのSAORIさんに相談して、顔の動かし方とかをお話させていただく機会もありましたので、今回ならではのロボット感を作っていきました。
―― 藤木さんにも引き込まれそうになるんです。ヒューマノイドの優しさというか、単純なロボットじゃなく、冗談も言うし、ターミネーターじゃないですけどそんな感じもするので、とても親近感が湧きました。
三木監督
大事にしたかったのはユーモアの部分です。この映画を作る時に星新一さんの「ショートショート」みたいな、どこかシニカルで、人間が騙されたり苦しんだりそれでも立ち上がったりするのを、客観的に「ああ、人間って滑稽だよね」って観る視点の部分を藤木さん演じるロボットに、むしろ人間ならざる者だからこそ人間をそのように観る視点を担って欲しいなと思ってたので。前半の猫のピートと一緒なんですよ、実は。後半はピートが出て来ない分、藤木さん演じるロボットにそれを演じてもらった。そこの共通性があります。
―― なるほど!人間ならざる者に、逆に言うと鏡のように人間を分らせるってことですね。だからこそ、知らず知らずのうちに、無意識的に引き込まれてるのかもしれません。そして、夏菜さんにもインタビューさせていただいたんです。
三木監督
本当ですか!?夏菜さん最高ですね!
―― 「私だけです、猫アレルギーじゃないの」って仰ってました(笑)
三木監督
(爆笑)
皆、若干猫アレルギーがあるんですよ。皆くしゃみし出すみたいな。
―― 豹変する役柄もそうですし、綺麗な服も着ていらっしゃったんでスタイリッシュで素敵でしたが、撮影で印象に残っているエピソードがあればお聞きしたいのですが。
三木監督
夏菜さんは現場で本当に楽しそうで。そのおかげで撮っている現場のテンションが上がっていました。しかも、悪役がイキイキしてる作品っていい映画が多いですよね。悪役の魅力って大事だなって思ってるので、それこそ『ダークナイト』のジョーカー然りじゃないですけど。お芝居も想像以上に凄く良かったです。
「摩擦も熱」三木監督のモットー
―― まさに監督の狙い通りだったのですね!ここまでいろんな凄い作品をお作りになられていらっしゃると思うんですけど、作品作りの面白さや難しさ、今回の作品を手掛けることにおいて新しい発見があったとか、その辺りの監督のご感想やご意見をお聞かせください。
三木監督
映画の面白さって、ルーティンワークじゃないところだと思っていて。毎回作品毎にやり方も違うし、ある程度共通してるスタッフもいるんですけど、新しいスタッフも必ずいますし。総合芸術なので自分一人では出来ない作品だから色んな意見をぶつかり合わせていく中で、自分のモットーとして「摩擦も熱」って思っていて、熱量を生み出す大事な要素だと思ってるんです。現場で結果的に意見が違っても映画を良くするために色んな意見を出していく。その中でどうチョイスしていくかが監督の手腕だと思っています。
特に今回は新しいチャレンジだらけだったし、ビジュアルをどうするのか、美術の造形をどうするのかはみんな手探り。でも、分からないからこそそこを楽しむことが、一番自分の中では大事なポイントにしています。
今回も50年代のアメリカの小説をどう映画化しよう…(笑)って頭を抱えたけど、分からないことをどう楽しみに変えていくか、物語の宗一郎がどう困難を切り抜けていくかという、そのクリエイティブの部分が物語に通底するテーマとシンクロしたりするじゃないですか。そういう瞬間がある方がやっぱり映画に熱を生み出したりもしますよね。
―― この作品で描かれている未来については、こういう風に変わっていくのかなって自然な形で受け止めましたので、かなり監督の狙い通りじゃないかなと思います!ありがとうございました!最後に動画で映画ファンにメッセージをお願いします!
三木監督
映画『夏への扉 -キミのいる未来へ-』を監督しました三木孝浩です。この映画は、本当に親子で楽しめるアトラクション・ムービーとなっています。是非、皆でドキドキワクワクしながら楽しんでいただければと思います。是非映画館で楽しんでください。よろしくお願いします。
キャスト
山﨑賢人
清原果耶
夏菜
眞島秀和
浜野謙太
田口トモロヲ
高梨 臨
原田泰造
藤木直人
監督
三木孝浩
原作
「夏への扉」ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)(ハヤカワ文庫刊)
脚本
菅野友恵
主題歌
LiSA「サプライズ」(SACRA MUSIC)
音楽:林ゆうき
製作幹事:アニプレックス 東宝
制作プロダクション:CREDEUS
配給:東宝 アニプレックス
公式HP:https://natsu-eno-tobira.com/
©2021 映画「夏への扉」製作委員会
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