まるで別人!一人二役を見事に演じたイ・テギョンさん【インタビュー】映画『湖底の空』

湖底の空,画像,イ・テギョン

映画『湖底の空』イ・テギョンさんインタビュー

日本、中国、韓国の合作映画『湖底の空』が、6月12日(土)より新宿Kʼs cinemaほかで全国順次公開中です。本作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020でグランプリとシネガーアワードをW受賞した注目作。映画祭で観た観客から「エンドロールを見るまで、一人二役だとは思わなかった」という驚きの感想が多数寄せられたのが、本作で空(そら)と海(うみ)を演じ、全く別のキャラクターとしてスクリーンに存在していた韓国インディペンデント映画のミューズ、イ・テギョンさんです。

今回は、テギョンさんにシナリオを読んだ時の感想や難役への挑戦を振り返っていただきながら、様々な解釈を楽しむことが出来る『湖底の空』の世界観を存分に語っていただきました!

【動画】イ・テギョンさんインタビュー

―― 色々な要素が詰まっている作品だと感じました。本作に向けて佐藤監督とはどのような会話をされましたか?

イ・テギョンさん
最初に映画のシナリオをいただいた時、完成度が高くてとても良かったので、作品に魅了されて“この作品に出演して演技をしてみたい”という願望が凄く強かったです。

ただ、通訳なしでは意思疎通があまり出来ないので、A4の紙に質問を書いて監督にお渡ししました。そうすると、監督が凄く丁寧にタイピングして説明してくださるんです。そんなやり取りをしていたので、空(そら)という人物の感情の折り合いをどうやってつけていくか、またそれを発展させていくかを考えながら役作りをすることが出来ました。

―― 空の悲しさや自責の気持ちが凄く伝わってきました。暗くなってしまって自分だけ幸せになってはいけないという気持ち、罪悪感と後悔に生きる空。そして、デギョンさんはその弟の海(かい)であり海(うみ)も演じました。空と海を一人二役で演じ分けるのは大変だったと思いますが、意識したポイントを教えてください。

湖底の空,画像

イ・テギョンさん
シナリオを読んだ時に、空が選んだ生き方、生きることに対する眼差しや態度が理解出来そうだなと感じるところがありました。ある意味共感出来るところがあったように思います。

例えば、私も何かあった時に自分を責める日を設けて、一日わざと辛い気持ちで過ごすことがありました。ある意味で空と似ていることをしていたので、空というキャラクターに対しての愛情はとても深かったです。

一人二役に関しては、撮影現場の負担や大変さよりも、むしろ100%の演技を事前に準備することの難しさの方が大きかったです。というのは、現場でちょっとアドリブを入れるとか、即興的に演技するような余地がない状態、少しでも誤ったらズレてしまうような状況だったので、それは多少不安に感じるところでした。例えば、空を演じた後、それに対するリアクションとして私が海の立場になって返さないといけないので、そこは準備段階で難しかったポイントです。

でも、繰り返しになりますが、シナリオ自体の完成度がとても高かったので、台詞やシナリオを追っていけば、自然に空と海のキャラクターを演じることが出来たように思えます。人物が二人いるから二人を技術的に分けるということよりも、個人の経験、背景、それぞれを巡る色んな物語や感情に集中することで演じ分けが出来たかなと思います。空は自分が幸せになることを拒否しているけれども、海は空に幸せになって欲しいと思っているので、そのようなことも意識しながら演じました。

湖底の空,画像,イ・テギョン

―― 全く別人に見えたので本当にスゴイ演技だなと驚きました。望月(演:阿部力さん)に紹介されて行った美術館で、「白と黒が集まってモノクロの絵として、別の意味が立ち上がってくる」という話を空にしていました。白と黒が集まってモノクロの絵として別の意味を持つように、女性と男性が一緒になって家族という新しいつながりが生まれるのだと感じました。白と黒そして男と女、それぞれ個々では意味を持たないものが、二つ一緒になることによって新たな意味が生まれるという不思議さ・偉大さに改めて気づかされました。演じながら、こうしたことをテギョンさんも感じましたか?

イ・テギョンさん
例えば、性別の問題については、それによって限定されることが後になっていくと、限定されるわけでもないような曖昧なものとして見えてきました。仰ったようなこともぼんやりとは理解していたかもしれません。

海は男性として生まれたけど女性になりたい。両方の性別の間、曖昧な状態であり、空とは家族として繋がっている。一卵性双生児でもあり、こういうケースはとても珍しいと思いました。

望月が空に好意を示した時、“自分自身は幸せになってはいけない”と、空がかなり驚くような行動をする場面もありました。そこでは、望月が男性で空が女性という性別の問題も当てはまると思うんですが、攻撃的な態度だった空がその後の美術館のシーンでモノクロの絵について話をしていたのは、望月に対して正直でありたい気持ちとそうしてはいけない警戒心の間で揺れ、感情の動揺もあったからなのかもしれません。

望月の態度は、白と黒で構成されるモノクロの話のあとで、その間の灰色のような空を受け入れたいというプロポーズのようなものでもあったのかな?とも思えて、その場面における望月の大人としての成熟さはカッコイイなと感じられました。

質問で仰ったような内容もある意味でその辺りに含まれているかもしれず、そういう解釈も内包しつつ映画が完成されていったのかなと思います。

湖底の空,画像,イ・テギョン

―― 実家に戻った空と母チスクとの会話で、母が「私は20年間縛られてきたのよ!」と感情を吐き出したわけですけども、当然空も辛かったわけですが、お母さんの現実の悲しさの重さが非常によく伝わってきたシーンでした。母の直面していた圧倒的な現実に打ちのめされ、改めて家族を失う悲しさの重さが伝わってきました。ですので白と黒の話も含めて、金暁明さん演じる家主の望月に対する一言「誰とでもいいから早く結婚した方がいい」という言葉が軽く聞こえませんでした。テギョンさんはどう感じましたか?

イ・テギョンさん
海を巡る事件は、空やチスクも含めた家族にとって同じような痛みであり、苦痛でもあるのですが、それを個人個人が違うように捉えている点が、私にとって映画の中で印象的なポイントの一つでした。

例えば、現実から逃避するか現実に直面するかという風に二人の人物は違う捉え方をしているのですけど、空の場合は自分を責めて罪責の念で韓国を離れるわけです。お母さんの場合は、韓国に残るという選択をしている。私にとってもこの二人のやり取りの場面はとても心が痛むようなシーンでした。

湖底の空,画像

家主の台詞に関しても、台詞自体はサラッと軽く話すような場面ですが、やはりそれに込められている意味自体は軽くないのかなと私も思いました。映画の色んなところに手がかりがあると思っています。痛みを感じる、つまり、望月や空と海のお父さん、お母さんも含めて色んな人たちがそれぞれ痛みを持っているわけです。あの台詞の影響で、もしかすると望月は空に対して自分の気持ちを伝えようとか、空に近づこうという風に勇気づけられたのかもしれません。

―― 観ていて一番好きなシーンは、望月と一緒に食事をするシーンです。あそこまで徹底して自分を隠す必要があったことに、空の抱えている感情の大きさを感じました。まさに、一人二役の一番大きな見せ場だった思いますが、あの時はどんな気持ちで演じられていたのか、佐藤監督からのディレクションも含めてお聞かせください。

イ・テギョンさん
今までの空とは異なる姿を唯一見せるところでしたし、同時に心が痛むシーンでもありました。

監督からもここではキャラクターが完全に変わらないといけない。完全に異なるものとして演じる必要があるというようなお話がありました。ここでは海の振りをしているのではなくて、もしかすると海自身のような、“海かもね”みたいな感じの話も出ていましたが、このシーンを撮る時は最初から最後までずっと凄く複雑な、錯綜しているような感情を持って演じていました。

湖底の空,画像

この場面で空は自分が本当に願っているのではなく、自責の念に影響されてそのような選択をしているのです。撮影の際に難しいと感じたところは、私にそれほど日本語の実力があるわけではないので、望月役の阿部さんにご迷惑をかけてはいけないけど、“大丈夫かな?”という心配はありました。

このシーンは空にとっても凄く重要な場面ですけど、望月にとっても空の態度によってある重要な感情を求められる場面です。私の日本語が不慣れだったり不自然だったり、発音があまり良くないために、望月役をされている阿部さんの演技にも良くない影響を及ぼすのではないかという懸念がありました。しかし、阿部さんはプロとして素晴らしい演技を見せてくださったので、私もとても驚き、凄いなと感じました。

望月がこの場面で受ける扱いは(笑)、監督やスタッフの方々も「望月、本当に可哀相だな」という目で見ていました(笑)。

―― 他にもいろいろお聞きしたいんですが、やっぱりタイトルです。英題では『SORA』、そして邦題では『湖底の空』であり、とてもよく練られたタイトルだと思いました。テギョンさんはタイトルに関してはどのように感じられましたか?

イ・テギョンさん
英題の『SORA』は『湖底の空』という邦題とは違う感じがしました。空という人物の人生全体を貫通するものを見せるようだと感じて、良いなと思いました。

また、邦題の『湖底の空』の場合は、映画を最後まで観た後に初めてタイトルの意味が完全に理解出来るところもあって凄くいいと思っています。個人的には邦題の方が好きです。最初にシナリオを読んだ時は、水の底の方に空がいる?みたいな感じで、抽象的な印象で理解していたんです。最後まで読み通して、“あっ、こういうことだったのか!”って。悟りというか驚きがあったので、英題も好きですが、個人的には邦題の方により愛情を持っています。

―― 安東の風景がとても幻想的で綺麗でした。撮影で特に印象に残っている場所や風景があったら教えてください。また、コロナ禍ということもあるんですけれども、日本で行ってみたい場所があったら教えてください。

イ・テギョンさん
安東を除いた撮影場所は、東京都心とその付近でした。どこも行ってみると全部良くて、韓国とは雰囲気が違いますし、建物のデザインも韓国とは違うものがあったので、珍しく、面白く、楽しかったです。

行ってみたいところは沢山あります(笑)。

有名な福岡、大阪、札幌は全部行ってみたいんですけれども、今すぐ日本に行けるとすれば、まずは東京に行きたいです。東京の活気や綺麗な感じとか、コンビニで食べるとろろ蕎麦とか(笑)、カフェでアイスコーヒーを頼んでのんびり楽しむとか。私はビーガン(完全菜食主義者)なので、撮影の合間に時間がある時には、ビーガンのレストランをずっと巡っていました。新宿のあるお店でビーガン専用のバーガーが売られていて、凄く美味しかったので、今すぐ行くなら新宿のそのお店に行くと思います(笑)。

―― 代わりに行ってこようと思います(笑)。

イ・テギョンさん
(笑)

―― 最後にテギョンさんのお気に入りのシーンを教えていただきながら、日本の映画ファンにメッセージをお願いします。

湖底の空,画像

イ・テギョンさん
私が一番好きな場面は、最初に出て来るシーンで、空が自分の身体を見つめているところです。その理由は、その中に空、そして海を含めて色んな意味が含まれていると思うので、その場面が一番好きです。

撮影からかなり時間が経ちましたけれども、ようやく『湖底の空』という作品が、日本で公開されるという知らせを監督から聞いて、大変嬉しく思いました。公開まで佐藤監督が一番苦労なさったと思いますので感謝の気持ちをお伝えしたいのと、監督やスタッフの方々が本当に熱心に皆心を一つにして撮影した作品でしたので、この作品に参加することが出来てとても幸運でした。また、撮影を通じて日本の皆さんと交流することで日本の温かい「情」と言うのですかね。そういうものも感じさせていただくことも出来ました。

映画をご覧になった皆様がこの映画を観てから、足取りが軽やかな感じで家にお帰りになっていただければなと思います。この『湖底の空』という映画に皆さんが愛情を持ってくださることを願っています。どうもありがとうございました。

―― ありがとうございました!

イ・テギョンさん動画インタビュー

公式HP

www.sora-movie.com

キャスト

イ・テギョン
阿部カ
みょんふぁ
武⽥裕光
アグネス・チャン
ウム・ソヨン
ジョ・ハラ
周亜林
蔡仁堯
早川知⼦
王玫⼦
⾦暁明

映画『湖底の空』作品情報

監督・脚本/佐藤智也

配給宣伝/ムービー・アクト・プロジェクト
配給協⼒/ミカタ・エンタティンメント
製作/マレヒト・プロ ⽇本・韓国・中国合作◎2019MAREHITO PRODUCTION

新宿K’s cinemaほか全国順次公開中

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