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返還交渉人 柳川強監督
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2010年の外務省の“密約問題”調査により、72年の沖縄返還当時の外交資料がほぼ全て公開されました。対米交渉・対沖縄折衝で大きな役割を果たした外交官・千葉一夫。「鬼の千葉無くして沖縄返還なし」と称された千葉を非公開資料や遺族への取材から掘り起こした『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』(宮川徹志著)を原案に、本作品が誕生しました。鬼の外交官・千葉一夫を井浦新さんが主役として見事に演じ、妻を演じた戸田菜穂さんの愛が彼を支えます。さらに、尾美としのりさん、佐野史郎さん、大杉漣さん、石橋蓮司さんが出演、更にナレーションを仲代達矢さんが務め、日本を代表する名優が集結し実話をベースとした物語に重厚感とリアリティを加え、見事な社会派エンターテインメント作品が誕生しました。

本作品の柳川強監督に作品に込めた想いや、大杉さんが現場でみせていた素顔など、作品に流れる制作者の方々の“意思”をお聞きすることが出来ました。
〇鬼の千葉を突き動かした2つの“音”
Q.制作が決まって、2017年1月に最初に沖縄を訪問した際の印象を教えて下さい。

沖縄に行って、最初に現地のタクシーに連れて行ってもらったのが米軍の嘉手納基地です。軍用機が離発着する場所が2ヶ所あるところを、運転手さんが風向きなどをみて「今日はこっちですね」という具合に案内をしてくれたのですが、タクシーを降り立った瞬間、飛行場から離陸した米軍戦闘機が低空飛行で物凄い爆音とともに頭上を通過しました。音の迫力に殺されるかと思ったほどで、その夜は残響音が残り、なかなか寝付くことができませんでした。

Q.外交官・千葉一夫氏も同じ体験をされたのかもしれません。

そうですね。沖縄に通っていた千葉さんもその爆音を感じたからこそ、人生を賭けて返還交渉に取り組んだのだと想像します。加えて、戦中に海軍通信士官として、アメリカ軍の無線を傍受していたわけですが、沖縄戦の様子、特に艦砲射撃による沖縄への攻撃を離れた場所から音で聞き何の手立ても打てない辛さ・無力感もあったと想像します。彼を突き動かしていたものは、2つの“音”だったのかもしれません。
〇“理性の力”で理想を追い求めた千葉一夫氏
Q.千葉一夫氏は、なぜ生涯をかけて理想を追い求め行動することができたのでしょうか。

千葉さんがなぜ理想を持ち得たかと言えば、1つは“純粋な心”を持ち続ける能力があったからだと思います。

子供の頃のエピソードですが、外交官の息子として海外で過ごしたので、帰国した時に変な日本語を笑われ、それに対して怒りを爆発させ、暴力を振るったそうです。“自分が正しいと考えること”を信じる姿勢が、彼には元々備わっていたのだろうな、と思います。

そして、そんな純粋さを守り続ける為の“理性の力”があった事が、この千葉さんを考えるカギだと思いました。彼の場合は、“理性の力”があるからこそ、純粋な理想を継続して抱き続ける事ができ、行動する力になったのだと思います。

ともすれば、私たち個人は、情動に訴えられることのみを良しとして受け止め、たびたびその時々のムードに流されてしまいます。それは、ひとえに理性の力が足りないからだ、と思います。千葉さんは、終戦直後にご両親を亡くし、心に大きな傷を負っています。その後の人生で負の感情に支配されても不思議ではありません。しかし、彼が後の人生で大きな功績を残せたのは、理性の力で自分の感情をコントロール出来たからだ、と思います。そんな彼の強靭な理性が、返還交渉を続ける原動力となったのだと思います。

Q.真のヒーローだったと

そうともいえます。でも、正義の味方・スーパーヒーローにはしたくありませんでした。とかくヒーローというのは人間味が失われがちで・・人間味が失われてしまうと、リアリティが消えてしまうと考えました。

後半、理性的に生きてきた彼が、自分を見失いかけたときに奥様から強烈な叱咤を受ける所など、精神的にアンバランスな所も描きました。その方が魅力的に見えると思ったので・・・。
〇今の日本の原点を追い求めて
Q.監督はNHKで戦争関連ドラマ、社会派ドラマを数多く手がけていますが、どのような想いで向き合ってきたのでしょうか。

ディレクターとしての私の根底には、戦争の頃の日本や人物を描くと、“国家”と“個人”、“組織”と“個人”など今に通じるテーマに触れることができるのではないかという考えが流れています。戦争中の緊張感、当時の極限に追い込まれた個人の状況を描くことで、今に通じるものがあるのではないかと。だからこそ私は、『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』(07)、『最後の戦犯』(08)、『気骨の判決』(09)を企画し、演出しました。当時の状況が出発点となり今の日本が形成されているのではと思っています。

Q.社会派ドラマを描く上で、心がけていることがあれば教えてください。

例えば、本作の沖縄の問題を挙げれば、米軍基地反対運動もあるけれど、基地によって生活が成り立っている部分もあり、個人個人が揺れ動いている実情があります。一方を正義と規定してしまうと、途端に本質が見えなくなる恐れがあると思っていて、これは、基地問題に限らず世の中全般に当てはまることかもしれません。

この映画で沖縄返還交渉を描く上でも、主人公の千葉をはじめそれぞれの人物が「自分の価値判断は正しい」と思って行動している、というスタンスで制作しました。千葉と対立する駐米大使・植田啓三役の大杉さんも「当時は安保条約で日本がアメリカに守られている中で経済が発展しているわけだから、大使はそれが当然常識だと思っていたはずだし、僕もその想いで、その通りに演じるよ」と。

演出側が白黒をつけるのではなく、どちらも白として描くというか・・、政治的なお話はどちらかに寄せてしまうと、それはリアルではなくなってしまうと思っていて、つまり、私たちの仕事は価値判断をつけることではなく、その人間の在り様を描くことが本来の仕事であり、全てだと思っています。価値判断はあくまでお客様に委ねるというか・・。
〇社会と人間の関わりを描き続けたい
Q.作中「沖縄を取り戻す・・・それが僕の仕事だ」と千葉氏が誓います。柳川監督にとっての “仕事”とは何でしょうか。

社会と人間との関わりを描くことでしょうか。

憧れはイギリスのケン・ローチ監督なんです。ちょうどこの作品を制作する際、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2017年3月日本公開)を映画館で鑑賞しました。この映画も、いつものケン・ローチ作品と同じく、淡々と事実だけを積み重ねていく作りなのですが、ラストシーンが終わった後、僕たちの中に残る感情はなぜか人生賛歌なんです。

まだまだその域には到達しませんが、それでも今回の私の映画で“前向きに希望を持って生きていきたい”と観客の皆さんに思ってもらえればありがたいと願っています。

テレビも映画も色々な作品がありますが、常に“社会”を描くべきだと思います。人間は社会の中で生きているわけですから、その中でどう生きているのか、また、色んな矛盾を抱えながらどう乗り越えて生きていくのか、又引きずっていくのかを・・・。

“社会”を描いた映画が増え、又、そういう映画を観たい人が増えてくると、映画も文化ですから、作り手側も観る側も意識が変わり、この国のあり様も少しは良くなるような気がするのですが・・・。
〇大杉漣さんとの思い出
Q.公開を前に残念ながら大杉漣さんが亡くなってしまいました。撮影現場での大杉さんと思い出を教えて下さい。

脚本の西岡琢也さんと大杉さんは40年来の繋がりがあり、琢ちゃん、漣ちゃんとお互いを呼び合っていました。「琢ちゃんの脚本なら、出演したいな」と以前からお話されていて、今回の作品でそれが叶いました。

大杉さんがコップを使って安全保障の微妙なバランスを表現する場面があります。実はあのコップは大杉さんが自宅から持ってきてくださったものです。

「琢ちゃんの脚本だから、下手はできないしな(笑)」と、自宅で自分愛用のもので相当練習されてきて・・撮影では、あの長台詞が一発OKでした。OKを出した瞬間、子供のように“イェイ”と喜んでいる姿が今でも目に浮かびます。(笑)

Q.役者として本当にプロフェッショナルな方なのですね。

もう一つ、外務省の官僚が集まる料亭のシーンのリハーサルで印象的なことがありました。

大杉さんが「実在の人物を演じるの実は苦手なんだよね。縛りがあってすごく悩むんだよね。実在に縛られ過ぎると、自分の芝居が制約されちゃうし。これでよかったの?」と。実在の人物を演じる場合、当然真摯にその人に向き合わないといけない、けれども物真似や再現になってしまうとしたら、それでは役者として自分が演じる存在意義がない。そんな葛藤に真摯に取り組んでいる姿勢が現場にありました。

そんなやり取りをみて、佐野史郎さんが「まあまあ、やりましょうよ!悩んでいたって変わらないんだから・・」って声をかけて下さって本番に入っていきました。これはこれで、大杉さんの悩みを判った上での佐野さんの言葉だったりするんですね。そんな姿を間近でみていた主演の井浦新さんも「大杉さんのような大ベテランの先輩でも未だに悩みを抱えて演じているんですね。僕なんかまだまだですね」と話していました。井浦さんにとってもすごく豊かな時間だったようです。


<編集部より>

作中、琉球政府行政主席・屋良朝苗(石橋蓮司)は、地域の子供たちに沖縄の未来を託します。また、外交官・千葉一夫とその同僚も、自分たちの想いが必ず後輩たちに受け継がれることを信じて闘い続けます。大杉漣さんが残してくれた多くの財産も今後の日本の映画界に長く生き続けていくことにも触れました。社会を、人間を描いた本作品を通じて、私たちはどんなことを感じることができるのか、一人一人への宿題であり、大きな期待の塊を感じました。

先人たちの想いを引き継ぐ監督が社会を描き続けてくれること、そしてその想いが未来に繋がっていくことを応援しています。柳川監督ありがとうございました!
『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』は2018年6月30日 ポレポレ東中野ほか全国順次公開です。

■予告動画

■キャスト
井浦新
戸田菜穂
尾美としのり
中島歩
みのすけ
チャールズ・グラバー
吉田妙子
平良進
津波信一
佐野史郎
大杉漣
石橋蓮司
■スタッフ
監督:柳川強
脚本:西岡琢也
音楽:大友良英
語り:仲代達矢
原案:宮川徹志
「僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫」(岩波書店刊)
プロデューサー:西脇順一郎
■公開情報
2018年6月30日(土)ポレポレ東中野
7月7日(土)桜坂劇場ほか全国順次公開
■公式サイト
http://www.henkan-movie.com
■コピーライト
(C) NHK





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