『子どもが教えてくれたこと』 アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督インタビュー

「フランス映画祭2018」に合わせて来日し、取材やトークイベントなどを精力的に行っていたアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督に『子どもが教えてくれたこと』(7/14公開)に込めた想いをお聞きしました。
ー なぜこの映画を制作したのか?
娘を病気で亡くした個人的な経験をもとに、彼女との日々を綴った本「濡れた砂の上の小さな足跡」(講談社)を出版しました。
本では、娘から“いまこの瞬間”を生きることの大切さを学んだことなど、あくまで私の個人的なケースを書きつづりました。ところが、ふと、他の子ども達にも目を向けてみると、子どもにはそれぞれ特有の資質があることが分かりました。そこで、子ども達に発言権を渡すことで教えてもらった“人生にはこんなに素晴らしい生き方があるんだ”という体験を、映画を通じて皆さんと共有したいと思いました。
子ども達と接すると、彼らは大人にはないパワーを持っていて、こちらが元気や勇気をもらえるようなことが沢山ありました。受け取ったエネルギー、そして色々な方々との出会いに反応していくことで、少しずつ少しずつこの作品の企画が進みました。
ー 子どもってみんなこうなんだ
様々な出会いの中には、もちろん病気の子どもを抱えている家族との出会いもありました。
病気にも色々なケースがありますが、共通しているのは悲しみです。
同時に、病気にも関わらず一生懸命に生きようする姿に“驚かされる”という体験も共通していると思います。病気であるか否かに関わらず「子どもってみんなこうなんだ」と普遍的なものを感じました。
私の子どもだけではなく、フランスの子どもだけでもない、世界中の子どもたちに共通する特別なパワーを皆さんとシェアしたかったのです。
ー 子ども達にとってなぜ“学び”が欠かせないのか
病気の子ども、特に難病を抱える子どもへの教育は難しい問題です。
余命が長くはないと分かっていると、親御さんは「勉強はしなくてもいいから、残りの人生好きなことをさせてあげたい」という気持ちを持ち合わせます。
だからと言って、学校に行かせなかったりすると彼らは不安になってしまう。子供には本能的に“学びたい”という欲求があり、学ぶことをしないと自分に柱がないように感じてしまいます。
この映画に登場するテュデュアル君には、お祖母ちゃんがピアノを教えたり、本を読んだりするシーンがありますが、これは子どもに「あなたはまだまだ生きるんだよ」という安心感を抱かせ、その中で学ぶ喜びを感じさせるのです。教育というのはどんなに重病でも続けていくべきなのです。学ぶことは、生きることなのです。
ー 家族の想い
この映画に登場する5人の子ども達は笑い、楽しみ、悲しみ、時に苦しんでいますが、周りの大人達が適切な距離で彼らを支えていることは間違いありません。
でも、最初から全て完璧にできる家庭などありません。私が取材した親御さんたちみんな試行錯誤。それでいいんです。マニュアルがないのだから、子どもに順応していくしかありません。
病気が判明した時、私たち家族は物凄い衝撃を受けます。
この子とこんな事をしよう、こんな風に育てようと膨らませていたイメージが一瞬にして崩壊するような感覚です。今まで考えていたプランが崩れ、子供の声にさえ耳を傾けられなくなったり、正解が見当たらず途方に暮れ悩んでしまいます。
アンブルとお母さんのエピソードを紹介させてください。
動脈性肺高血圧症を患うアンブルは、友達と同じようにはスポーツができません。でも、彼女は「スポーツがしたい!みんなの中に入りたい!命が短くなろうが私は行きたいの!」と主張するんです。
そこでアンブルのお母さんが本当は辛いけど、グッと堪えて彼女の声を聞く努力をするんです。
“彼女が望んでいることは何か”
それが命を短くすることに繋がっても、家族は決して罪悪感を感じてはいけないのです。
ー 仕事と子育ての両立
各国によって違うとは思いますが、フランスは育児休暇が多いし、助成金や託児所など支援体制が整っています。
でも、何より大切なのは自分にとってバランスがきちんと取れていることです。
私は出産してから16年の間、プロとして仕事を続けることを諦めたことはありません。娘の看病で小休止していた時期もありますが、仕事を再開しました。
私の場合、家事や育児を手伝い、親身になって私たち家族とともに歩んでくれる家政婦の女性がいます。制度やサポートしてくれる人たちに助けられて、子育てと仕事を両立できるのがフランス社会です。女性に限らずやりたいことがあるならば、可能にするために必要なサポートを探して実現させていくべきです。私にとって必要なサポートが家政婦さんの存在でした。
『子どもが教えてくれたこと』は、7月14日よりシネスイッチ銀座、他全国順次公開!
<編集部より>
難病を抱える5人の子どもたちに密着したドキュメンタリー映画。スクリーンに映し出されるのはお涙頂戴の悲しい姿ではなく、生きる力に満ち溢れた子供たちの姿。本気で楽しみ、時に苦しむ姿に私たち観客は何を感じるのでしょうか。この映画の持つ温かさとエネルギーが皆さんの人生に小さな勇気を与えてくれることを信じています。アンヌ監督、素敵なお話をありがとうございました!!
■アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督プロフィール
1973年、フランス・パリ生まれ。大学でジャーナリズムを学び、新聞や専門誌などに幅広く執筆。2000年にロイックと結婚、02年に長男ガスパールが誕生する。04年、長女タイスが誕生。06年、 タイスが異染性白質ジストロフィーを発病し、家族が一丸となっての闘病生活が始まる。この時、すでに3人目を妊娠中だった。
07年、タイスが短い生涯を終える。生まれたばかりの次女、アズィリスもタイスと同じ病を患っていることを告げられる。08年、次男アルチュールが誕生。
11年、タイスとの日々を綴った『濡れた砂の上の小さな足跡』(講談社刊)が発売される。新聞や雑誌を中心に大きな話題を呼び、35万部を超えるベストセラーとなり、現在も部数を伸ばしている。13年、家族のその後を描いた『Une journée particulière(ある特別な1日、未邦訳)』を上梓。
17年2月、『子どもが教えてくれたこと』がフランスで公開されると、“フランス版ロッテントマト”AlloCinéでは、一般観客は5点満点中4.2、プレスは5点満点中3.8の高得点を記録する。同年、次女アズィリスが短い生涯を終える。
現在は苦痛緩和ケア財団の科学委員会のメンバーを務める。夫と二人の息子と共にパリで暮らしながら、フランス各地で講演活動を行っている。
■予告編
■公式サイト
http://kodomo-oshiete.com/
■コピーライト
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