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アジア人の女性バックパッカーの目を通して、歴史と変化に翻弄されたバルカン半島の人々の生活を活写したロードムービー
2020年の東京国際映画祭でアジア9カ国の豪華キャストが大阪の梅田周辺に集い撮影された、多国籍多言語の群像劇『カム・アンド・ゴー』で話題を呼んだリム・カーワイ監督だが、一昨年の2018年にバルカン半島のセルビア、モンテネグロ、クロアチアの絶景を舞台に撮影が敢行され、美しい風景も見どころの一つであるロードムービー『いつか、どこかでSomewhen, Somewhere(2018年)』がついに劇場公開される。
『いつか、どこかで』は映画流れ者(シネマ・ドリフター)を自称するリム・カーワイ監督が旅をしながら映画制作をおこなう、バルカン半島3部作シリーズの第2作目。1作目である『どこでもない、ここしかない』ではバルカン半島のスロベニアと北マケドニアを舞台に、トルコ系マイノリティー社会の知られざる風俗と感情を生々しく描いたが、本作はアジア人の女性バックパッカーの目を通して、歴史と変化に翻弄されたバルカン半島の人々の生活を活写したロードムービーとなっている。
準備からクランクアップまでは約1ヶ月半。撮影は少人数のスタッフでおこなわれ、監督自身が制作上のあらゆる雑務(宿泊の予約、食事の準備、等々)までを担い、その他、撮影監督が1人、録音技師が1人という少人数のチームで制作されたという。前作『どこでもない、ここしかない』と同様に脚本なし、偶然にまかせ、現地の人々と即興で作られたが、本作がやや異なる点は、当地セルビアのプロの俳優も出演したことと、現地で監督が出会いスカウトした一般の人々も「他人」である役を演じなければならない、というルールである。
悲しい過去を背負い、その事実と向き合う主人公アデラを演じるのは、2013年度ミスマカオにも選ばれ、これまでいくつかの短編映画に出演したアデラ・ソーで、本作が長編デビュー作。プロの俳優と素人との境界を感じさせず、作中で素人「俳優」たちが真にせまる輝いた芝居を魅せることできたのは、鋭い洞察力に裏打ちされたリム監督の演出力と言ってもいいだろう。
本作のもうひとつの見どころはクロアチア、モンテネグロの美しい風景だ。我々がなかなか訪れることのない知られざる「絶景」は単に美しい景色である以上に、物語のいくつかの重要なターニングポイントとしての機能も担っている。また、セルビア人の撮影監督が照明もなく撮影したナイトクラブと夜景のシーンはダイナミック且つ生々しい……。などなど、そんな「映画的」な魅力にあふれた本作をまずはじっくり堪能したい。
あらすじ・ストーリー
マカオ人女性アデラは、愛する人との思い出の品物を展示する「別れの博物館」を訪れるため、クロアチアへ向かう。そこには彼女が寄贈した、亡くなった彼氏の残した携帯電話が展示されているのだ。
その後、インスタグラムで知り合ったセルビア人のアレックスに会うために、ベオグラードへ。だが、アレックスは姿を見せない。アレックスの到着を待つ間、アデラは見知らぬ土地で、自分の生まれた国とは異なる歴史や文化の中で暮らす人々との、非日常的な出会いやささやかな冒険を重ねることで、未知の世界、そして新たな自分を発見する。
ようやく現れたアレックスから予想だにしなかった結末を告げられるが、彼女のバルカン半島の旅は続く……
『いつか、どこかで』予告動画
キャスト
アデラ・ソー(蘇嘉慧)
カタリナ・ニンコヴ
ピーター・シリカ
ホスニー・チャーニー
マティ・ミロサヴリュヴィッチ
映画『いつか、どこかで』作品情報
プロデューサー・監督・脚本・編集:リム・カーワイ
監督プロフィール:1973年マレーシア生まれ、クアラルンプールに生まれる。大阪大学で電気工学を専攻、98年に卒業。2004年北京電影学院で映画を学ぶ。2010年北京で「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」を自主制作し長編デビュー。その後、香港で「マジック&ロス」(2010)、日本で「新世界の夜明け」(2011)、「恋するミナミ」(2013)を監督。2016年に中国全土で一般公開された商業映画「愛在深秋」を監督。本作は「どこでもない、ここしかない」(2018)に続き、バルカン半島2作目になる。最新作「カム・アンド・ゴー」は2020年東京国際映画祭でワールドプリミア。
撮影:アレクサンドラ・アンゲロフスキ
録音・整音:ボリス・スーラン
音楽:石川潤
英語、セルビア語、広東語
セルビア・クロアチア・モンテネグロ・マカオ・日本・マレーシア
2019年大阪アジアン映画祭特別招待作品
81min/2019/DCP/5.1ch/英語・日本語字幕
配給・宣伝:cinema drifters
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