ハイゼ家 百年
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遠い未来から家族の遺品を見つめる
ドイツ百年、全5章218分の家族史

本作品は旧東ドイツ出身の映画監督トーマス・ハイゼの家族が19世紀後半から保管してきた遺品(日記、手紙、写真など)を使い、ハイゼ家が歩んだ激動の百年を監督自らのモノローグで3時間38分語る驚異的な作品である。家族の遺品が伝える歴史は第一次世界大戦に始まり、ホロコーストによって引き裂かれた家族の過去、熾烈を極めた空襲、戦後のシュタージ(秘密警察)による支配、そして、ベルリンの壁崩壊後も終わらない戦争と分断に失望する東ドイツの人々の感情について語る。
ハイゼ家 百年

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引用に次ぐ引用—— 作中に積み重ねられた言葉は戦争証言にとどまらず、分断や差別、言論の自由、ジェンダー論、そしてアイデンティティの問題など現代的なテーマに及ぶ。ベルリンの壁崩壊から30年目に完成した21世紀映画史に名を刻む大作ドキュメンタリーの日本公開。
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『ハイゼ家 百年』予告映像

あらすじ

ハイゼ家の歴史は壮絶である。映画は1912年、当時14歳だった祖父ヴィルヘルムが学校の宿題で書いた戦争と権力についての作文から始まる。博士で学校の教師となったヴィルヘルムはユダヤ人女性で彫刻家のエディトと恋に落ち、ナチス・ドイツでは禁忌とされていた混血婚をする。そして、監督の父となるヴォルフガングと弟のハンスが生まれ、4人の幸せなハイゼ家が誕生する。第一次世界大戦後の混乱の中、ハイパーインフレーションが社会を襲い、台頭するナチスによるユダヤ人への排他主義は強まり、1933年にヴィルヘルムは教職を奪われる。そして、1942年1月18日、ウィーンに住むエディトのユダヤ人家族はホロコーストによって皆ポーランドへ強制送還される。

時代は第二次世界大戦末期。1944年、ヴォルフガングとハンスはゲシュタポに逮捕され強制労働所に収監される。ドイツ人である者とそうではない者は区別される。ヴォルフガングは熾烈な市街戦が繰り広げられたベルリンにいた両親の安否を気遣い手紙を書き続ける。この頃からヴォルフガングは思想的で戦後は学術の道へ進むことになる。後にヴォルフガングと出会うことになるロージーは、死体の山を掻き分けながらドレスデン大空襲を生き延び、ソ連軍が管理する外国人収容所でフランス人と偽り戦後の混乱をやり過ごす。そして、1952年、大学の研究所で働くヴォルフガングと自由奔放で恋多きロージーは運命的に出会い、監督であるトーマスと兄アンドレアスが誕生する。

冷戦時代、1960年代にフンボルト大学で哲学の教鞭を執っていた父ヴォルフガングは、東ドイツの劇作家ハイナー・ミューラー(1)や作家クリスタ・ヴォルフ(2)と交流し、教え子には詩人のヴォルフ・ビーアマン(3)がいる。一方、ロージーもノイエ・ドイッチェ・リテラトゥア(4)の編集者として多くの知識人と交流する。反体制派の芸術家たちと交流を持つ家族は絶えずシュタージの監視下に置かれる。家族への抑圧は強まり、1966年、ヴォルフガングは反体制的であるとされ大学の職を奪われる。そして精神を病みいつしか家族と離れて暮らすようになる。

時代は子世代へ。1974年、人民軍に徴兵されたトーマスは航空技術大隊に任務する。兵役を終えたトーマスはカメラを手に取り東ドイツの若者を記録し始める。体制に迎合せず映画を作ることは簡単ではなく不当な逮捕も経験する。それでもトーマスはドキュメンタリーを制作し続ける。1992年、ハイナー・ミュラーがフランクフルター・ルントシャウ紙(5)にこのように寄稿する。

「ドイツ人であるとは?ドイツ人の誇りとは—— 詩人や思想家の国民だ。ブレヒトとかアインシュタインとか—— スキンヘッドが答えた。ドイツ民主共和国では若者を平等に扱っていた。東の若者に開放したのは使用人用の出入り口だけ——— ハレ(6)にいるスキンヘッドの記録映画ではボンバージャケットにコンバットブーツの若者がカメラの前で器用にケーキを焼く。彼の夢は菓子職人だが見習いの働き口はまずない。焼いたあと彼は荒廃した町なかへ他の失業者と一緒に怪物に化ける。家で涙を流す母親はかつて社会主義的共同体を信じた元教師で今は通販会社の賃金奴隷だ。この監督はトーマス・ハイゼ。父親は東独唯一の哲学者——」

社会主義共同体を信じたハイナー・ミュラーも、クリスタ・ヴォルフも、そしてロージーも、壁崩壊後も終わらない国家による暴力と支配に失望する。2014年、トーマスは年老いた母ロージーの病院を訪れる。容態は悪く来年までもたないだろうと静かに語る。トーマスが大切に思う者も癌に侵されている。兄アンドレアスも同じ年に亡くなる。

1955年に東ドイツに生まれ、80年代にカメラを持ったトーマスは、壁の東側の故郷を記録した。その壁も、故郷も今は存在しない。ベルリンの壁崩壊から30年。不世出のドキュメンタリー作家が問いかける。在りし日の家族と故郷が自身にとってもたらすものは———。

<注釈>
(1)現代思想とアート・シーンを実践的に連動させたドイツの最も重要な劇作家
(2)「引き裂かれた空」で東ドイツ国民文学賞受賞したドイツの作家
(3)体制批判を弾き語るドイツの歌う詩人。1976年に西ドイツ公演中に国外追放処分となる
(4)Neue Deutsche Literatur:旧東独の文芸雑誌(1952年―2004年まで刊行)
(5)フランクフルトアムマインを拠点とするドイツの日刊紙
(6)旧東ドイツザクセン=アンハルト州の都市

監督

トーマス・ハイゼ
ハイゼ家 百年
1955年東ベルリン生まれ。父は哲学者で大学教授、母はドイツ文学者。劇作家ハイナー・ミュラーなど東独の反体制派の芸術家たちと交流を持つ家族は絶えずシュタージの監視下に置かれる。ハイゼは70年代後半からドキュメンタリーを制作するが、80年代に制作した全てのドキュメンタリーは体制にとって相応しくないとされてベルリンの壁が崩壊するまで上映が禁止される。

自由な映画制作が出来なかったハイゼは、ハイナー・ミュラーの後押しもあり、ベルリナー・アンサンブルの舞台監督やラジオ・ドキュメンタリーのディレクターとして表現活動を続ける。壁崩壊後、東ドイツを記録したハイゼの作品は国内外で上映され次第に国際的な評価が高まり2019年ベルリン映画祭でフォーラム部門の最高賞に輝く。40年以上のキャリアで20作のドキュメンタリーを完成させる。『ハイゼ家 百年』が初の日米劇場公開作品となる。

2019年|ドイツ、オーストリア映画|ドイツ語|218分
日本語字幕:吉川美奈子
協力:ゲーテ・インスティトゥート
配給:サニーフィルム

©︎ma.ja.de filmproduktions / Thomas Heise
公式HP:https://www.sunny-film.com/100years

4月24日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国劇場ロードショー

ハイゼ家 百年

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