
穂の国とよはし芸術劇場PLATでの上映会イベント
耳の聴こえない人のための言語「手話」を目の見えない人に伝えるためにはどのような音声ガイドで届けたら良いのか…。手話通訳の専門家からは難しいと言われながらも試行錯誤しながらチャレンジした人たちの姿を追ったドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』(監督:山田礼於 (『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』) )。2022 年 10 月全国順次ロードショー。
愛知県では、今秋、名古屋シネマテークにて公開が決定しています。先日、8月31日(水)、穂の国とよはし芸術劇場 PLAT アートスペースにて本映画の上映会イベントを開催、上映後に監督・出演者・スタッフによる舞台挨拶を実施しました。
本映画の企画のきっかけは、2021 年 2 月に PLAT で上演された舞台手話付きリーディング公演「凛然グッドバイ」の舞台手話通訳者 3 人を追った記録映画『ようこそ 舞台手話通訳の世界へ』の上映について、東京・田端にある映画館、シネマ・チュプキ・タバタに依頼があったことからでした。
PLAT では翌 9 月に舞台手話付き公演「楽屋」の上演が予定されていますが、この度、その関連イベントとして開催されました。
登壇ゲストには、本映画の山田礼於監督、『ようこそ舞台手話通訳の世界へ』ディレクターの越美絵さん、本作プロデューサーで出演者の平塚千穂子さんによるトーク、イベント終盤では豊橋市の隣りの市の愛知県田原市出身で、視覚障害者のバイオリニスト・白井崇陽さんがサプライズで演奏し、会場を盛り上げました。
白井さんは本映画の音声ガイドづくりのモニターの一人として出演されています。そして、トークの手話通訳として、「凛然グッドバイ」舞台手話通訳者として出演していたお二人、加藤真紀子さんと高田美香さんが今回のイベントの手話通訳士として参加。とてもスペシャルなイベントになりました。
~『こころの通訳者たち』の誕生秘話。
演劇、映画、そして今、オリジナルソングへとバトンが繋がれていく~
最初に上映会主催で、トークの進行を務めた穂の国とよはし芸術劇場 PLAT の吉川剛史氏よりイベントの趣旨の説明があり、『こころの通訳者たち』のきっかけとなった演劇「凛然グッドバイ」の舞台手話通訳者たちの様子を撮影したディレクター・越美絵さんより当時の撮影の経緯からトークがスタートしました。
「舞台手話通訳を演劇につけることで、より多くの聴覚障碍者の方にも観て頂きたいという思いでやっている(この映画にも出演されている)TA-net の廣川さんより、舞台手話通訳がどのようなことをしているのかが分かるような映像を作ってほしいという依頼があり撮影に臨みました。練習にお邪魔した時から、演劇に関わる皆さんの熱意が素晴らしく、それに釣られるような形で白熱した 4 日間の撮影現場でした」
越さんの話を受けて、その記録映像を事前に見せてもらった山田礼於監督は「舞台手話通訳については知らなかったけれど、わずか 1 回の公演のために、あんなに一生懸命にやって、公演後に抱き合って喜び合う姿を観てとても感動し、これはちゃんとしたお話しとして伝えるべきではないかと思ったんです。
演劇の撮影には立ち会っていなかったので、この豊橋の劇場にも、舞台手話通訳の加藤さん、高田さんにも直接会うのは今日が初めてだったのですが、この方たちがいなければ映画は出来なかったわけです。
演劇の記録映像をなんとかしたいと思っていたときに、お世話になったシネマ・チュプキ・タバタさんのことを思い出しました。
平塚さんが前作『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』の音声ガイドを作っていただいた時に立ち会ったのですが、字幕のなかで踏み込んだ表現をしていくけれど、それは映像に写っている人たちに対する深い愛情、洞察があって初めて出来るので、凄い能力だなと驚いたんです。
手話通訳者と音声ガイドのガイドを作るという「通訳者たち」という部分が結びついたならば、今までにない形のものが出来るんじゃないか、同時に目の見えない方、聴こえない方だけの話ではなくて、人と人のコミュニケーションが大きなテーマで、音声ガイドをつくるという作業を見続けるなかでそれが撮れるのではないかと思い、平塚さんに相談したら受けていただけたんです」
山田監督の話しを受けて平塚千穂子さんは「通常、シネマ・チュプキ・タバタでは誰もが映画鑑賞を楽しめるようにしていますが、この映画は舞台手話通訳者たちの本番に向かう取り組みの姿勢とか、本番中のセリフまわしの早い舞台にどういう翻訳をつけてやっているのかを伝えないと意味がないって思ったので、チャレンジングな取り組みでした。
ただ、山田監督の人柄も知っていましたし、監督がやってくださるのであればやりがいがあるだろうという確信があり、話し合いましょうという形で動き出しました。途中のプロセスを通じて、自分が知らなかったこともありました。
また見えない人たちはコミュニケーションの手段が違いますし、想像に及ばない世界でも、通訳者が受け取って大事にしようとしたものを全部聞いて、それをちゃんと繋いでいったら伝わるのではないか、それをやってみたかったし、見てみたかった。
だから伝わったって感じられたときに思わず涙が出ちゃったんですけど、通訳とか翻訳という分野以外でも、皆さんの様々な生活と重ねて、無理だと思っていることに対して信じてみようという、背中を押すような映画になっていればいいなと思いました」と想いを語った。
トークの最後に、映画の音声ガイドプロジェクトメンバーの一人で、全盲のバイオリニスト、白井崇陽さんがサプライズで登場。白井さんは豊橋市の隣りの田原市出身者。「愛をこめて花束を」「ハナミズキ」「情熱大陸」のメドレーをバイオリン演奏し、会場からの手拍子も受けて盛り上がった。
そして、演奏後に白井さんより「今は東京で活動しているんですが、生まれ故郷のすぐそばで上映会があると聞いて、ぜひ連れていってくださいと参加させていただきました。自分が出演した映画が上映され、こうして演奏できる機会があり本当に幸せな時間を過ごさせて頂いています。
自分なりに出来ることは何かないか、と考えまして、ここで初めてお伝えしますが、今、この映画のオリジナルソングを制作中です。楽しみにしていてください」と明かした。
聴こえない人に 生の演劇の感動を伝えたい。見えない人に ありのままの映像を届けたい。
見えない人、聴こえない人、車いすの人、小さなお子様を連れた人、誰でも一緒に映画を楽しむことができる日本で唯一のユニバーサルシアターのシネマ・チュプキ・タバタでは、上映する全ての映画に音声ガイドと字幕をつけている。そんな映画館にある相談が持ち込まれたことから本作の企画がスタートした。
耳の聴こえない人にも演劇を楽しんでもらうために挑んだ、3人の舞台手話通訳者たちの記録。
その映像を目の見えない人にも伝えられないか?
見えない人に「手話」を伝えるには――。
コロナ禍のなかで進行した、見える人、見えない人、聴こえる人、聴こえない人たち個性豊かなメンバーによる「音声ガイド」づくり。ちょっと無茶かも・・・と思われたアイデアから見えない人と聴こえない人にも対話が生まれ、互いに知らなかったことに気づいていく。
演劇との架け橋になろうとした舞台手話通訳者たちの想いは、壁にぶつかりながらも音声ガイド創りを「諦めない」メンバーたちの想いを重ね、いつしか言語を超え、障害のあるなしを超えて、<こころ>のバトンを繋いでいく。
『こころの通訳者たち What a Wonderful World』予告編映像
https://www.youtube.com/watch?v=pxZ9MYJD2UI
キャスト
平塚千穂子 難波創太 石井健介 近藤尚子 彩木香里 白井崇陽
瀬戸口裕子 廣川麻子 河合依子 高田美香 水野里香 加藤真紀子
語り 中里雅子
監督
山田礼於 (『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』)
プロデューサー
平塚千穂子
2021年/日本/ドキュメンタリー/90分
製作・配給 Chupki
公式HP:cocorono-movie.com
©️ Chupki
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