ベトナム映画の夕べ

「ベトナム映画の夕べ」ベトナム映画史 ~南北の歴史から紐解く~

2019/4/3、アテネフランセにて「ベトナム映画の夕べ」が開催された。歴史・女性・娯楽をテーマに、ベトナム映画に造詣の深い坂川直也氏をゲスト講師に迎え、その南北に分かれた複雑な歴史から生まれたベトナム映画の流れ、アクション映画の動向を紐解いてもらう。
〇開会挨拶
アジア映画研究会に所属する夏目深雪さんから開会のご挨拶。
ベトナム映画の夕べ
2017年に『映画秘宝EX激闘! アジアン・アクション映画大進撃』の作成にあたって、ベトナムのアクション映画についてはベトナム映画に明るい東南アジア映画史研究者の坂川直也さんが寄稿。とても興味をそそられる内容だったが、その時は残念ながら劇場公開作品が少なかった。その翌年2018年にベトナム映画祭2018実行委員会が主催の「ベトナム映画祭2018」が開催され、いくつかのアクション映画が上映されたが期待通りの素晴らしい内容だった。こうした経緯をたどり、今回、アクション女優兼映画監督のゴ・タイン・バンにフィーチャーした「ベトナム映画の夕べ」の企画に至る。

〇ベトナム映画史~南北の歴史から紐解く~ 坂川直也氏
ベトナム映画史とは北ベトナム中心の勝者による映画史だった。以下、北と南の映画の特徴について。
ベトナム映画の夕べ

・社会主義共和国が成立する以前、北の(ハノイ)映画は「ベスト101本(101 bộ phim Việt Nam hay nhất 」中9本がエントリー。ソ連中心に東側諸国のフィルムが上映され、国営の撮影所があり後に革命映画と呼ばれるプロパガンダ映画が作られた。1959-75年まで66本の劇映画が作られた。大半がモノクロ。

ベスト101本(101 bộ phim Việt Nam hay nhất ベトナム映画北ベトナムを代表する女優としてはチャー・ザン氏(『愛は17度線を越えて』『トゥーハウ姉さん』が挙げられる。彼女によって戦うベトナム女性像のイメージが拡がっていった。
北ベトナムの映画に関わった監督として挙げておきたいのは、ダン・ニャット・ミン監督(『焼いてはいけない』)。ロシア語の翻訳者として露に留学した経験を持つ。1967年に、国営のベトナム劇映画スタジオに助監督として採用され『ニュン姉さん』(1970)を共同監督、『海の上の星座』(1973)を監督。1975年にホーチミン作戦(サイゴン陥落に繋がる作戦)にベトナム劇映画スタジオのスタッフと共に参加し、サイゴン陥落の様子を撮影し世界に広め、ドキュメンタリー映画『五月、いっぱいの表情』を完成させた。自伝では、その頃に社会主義リアリズムに対して疑問を感じ、映画を辞めるか続けるかを悩んだ末にできた作品が『射程内の街』(1982)である。以降の映画が我々が親しんでいるダン・ニャット・ミン氏の作品になる。

・南の(サイゴン)映画は前出の「ベスト101」中4本エントリー。西側諸国のフィルムが上映され、主に民間会社によって商業娯楽映画が制作された。国営でも制作していたが少なかった。55-75年まで180本。俳優中心。メロドラマ、コメディ、怪奇等やカラー作品もある。陥落前は158の映画館(サイゴンは52)があった。45の映画輸入配給会社があり、7,550本の外国劇映画が上映され、映画はサイゴン市民最大の楽しみの一つであった。サイゴン生まれの監督としてはツイ・ハーク氏(66年に香港に渡る)がいる。(子供の頃にベトナム映画を観ていた可能性がある)
南を代表する女優はタン・ガー氏(チャー・ザン氏と同じ1962年生まれ)。南部の大衆歌舞劇カイルオンの出身。(『ソン・ランの響き』がカイルオンを扱った映画でプロデューサーはゴ・タイン・バン氏)主演作でメロドラマの『午後の日差し』ではタイトル曲が大ヒットした。『ベトナムの怪しい彼女』では憧れのスターとしてタン・ガーの名前が用いられ、劇中の写真店の店主にはタン・ガーの実の息子が出演する。
また、ベトナムの音楽には「黄色い音楽」と「赤い音楽」という分け方がある。「黄色い音楽」というのはベトナム共和国(南)で流行した歌謡・楽曲で、バン(意味:黄金)であり金の音楽という由来があり揶揄される形で「黄色い音楽」と呼ばれ、「赤い音楽」はベトナム民主共和国(北)、南ベトナム解放戦線の社会主義共和国で作られた楽曲であり、革命楽曲である。
『ソン・ランの響き(The Tap Box)』第31回東京国際映画祭

・南北統一後:サイゴン映画は封印され、サイゴンの映画人は国内に留まるか亡命するかの2つの選択肢を迫られた。国内に留まった人たちは、北側の国策・国民映画路線への転換を迫られ、ここからローカル映画の制作が困難になっていく。ドイモイ(1986年市場メカニズムや対外開放政策の導入などが行われた)以降は、西側の娯楽映画が入ってくると太刀打ちが出来なくなり、ベトナム映画は衰退していった。1990年34本だった年間制作数は2001年に4本まで落ちた。
政府は再生のために規制緩和を進め、民間映画会社を許可し、スポンサーが見つかれば2回だった検閲は1回に済ませるなど対策を行った。2005年にベトナムにシネコンが出来てから大きく潮流は変わる。更に2006年には映画法の規制を緩和。国内の映画館で上映する映画の20%はベトナム劇映画でなければならないという定めも設けられ、シネコン用のベトナムの娯楽映画を創るにはどうすればよいかという状況になった。そこで越僑(在外ベトナム人)の映画人やホーチミン市で活躍する若手に声を掛け、ここで国民映画主体であったベトナム映画界で一気に世代交代が起きた。ここでベトナム映画のアクション・コメディを変革した人物がチャーリー・グエンであり、ヴィクター・ヴー監督が台頭してきた。また、『ベトナムを懐う』のグエン・クアン・ズン監督(『美脚の娘たち』の音楽も担当、『無人の野』の脚本はズン監督の父)にも注目したい。ちなみに『ベトナムを懐う』の主役であるホアイ・リン氏は有名なベトナムで注目を浴びているコメディアンである。グエン・クアン・ズン監督によってやっとスターとコメディアンが徐々に復活してきた。

・現在:国民映画は見られておらず、民間ローカル映画へ。2017年の第20回ベトナム映画祭(べトナムではもっとも有名)では、劇映画のコンペで初めて国営映画が入らず100%民間映画会社が入った。第9回京都ヒストリア映画祭でも上映された『17歳の恋愛注意報』(プロデューサー:チャーリー・グエン)はかつて歴代興行収入1位であり、第20回ベトナム映画祭で最優秀賞の金の蓮賞を受賞する。因みに第16回はダン・ニャット・ミン監督の『焼いてはいけない』、第19回では『草原に黄色い花を見つける』がとった。
少し前のベトナム映画歴代興収トップ3は『ベトナムの怪しい彼女』『ホイにおまかせ』と『17歳の恋愛注意報』で、この3作品は韓国のCJエンターテインメントとの合作である。因みに、ベトナムの映画館は外資系が80%を占める。韓国系2社とインドネシアの1社で83%を占める。最も大きなシェアを占めているシネコンが韓国のCJ CGV Vietnamで43%になる。映画館は外資系で占められ、ゆえに(外資との)合作が始まっている。
最近の歴代興収を更新したのが、ニャット・チュン監督の「Cua Lai Vo Bau(妊娠妻を取戻すカニ)」でサイゴンで人気のコメディアンのチャン・タインが活躍し、コメディ映画が歴史を塗り替えた。また、新しいレーティングが2017/1/1から導入されたことも触れておきたい。P、C-13、C-16、C-18(18歳未満禁止)となった。(ちなみに『ハイフォン』はC-18なので高校生は観れない)
一方で、ハノイの映画はどうなったのかというと、インディペンデント映画が盛んになった。2016年の大阪アジアン映画祭ではエッジの効いたインディペンデント映画でベトナム映画を変える映画人が出来て来て、性と暴力をテーマに人間の暗部を映す問題作を紹介。ここに影響を与えたのが『青いパパイヤの香り』のトラン・アン・ユン監督。トラン・アン・ユン監督がハノイ映画演劇大学で教えていた時期があり、その教え子たちが関わっている。
国際映画祭用のA級映画としては『ビー、心配しないで!』の監督ファン・ダン・ジー監督(共同プロデューサーがトラン・アン・ユン氏)が挙げられる。現在公開中の『漂うがごとく』の脚本を務め、2作目『大親父と、子親父と、その他の話』をベルリンのコンペに出している。北側中心で生まれ育った人がサイゴンで出しているという位置付けになる。現在は、川端康成の短編小説「水月」の映画化を始めている。
更に、ファン・ダン・ジーとトラン・アン・ユンは毎年ダナンで国際ワークショップ・オータム・ミーティングをやっていて、ベトナムのみならずアジア各国から参加者が集まっており、ここからファン・ダン・ジー以降の若手が出てきている。
グエン・クアン・ズン監督(『ベトナムの怪しい彼女』のクリエイティブ・プロデューサー)の『輝ける日々に(ベトナム版サニー)』はCJHKエンタテインメント(韓国のCJとベトナムのHKフィルムの合併会社)の第一弾の映画となる。作品は1975年のダラット(ベトナム中南部の都市)に設定されており、出演する同級生4人組のグループ名のワイルド・ホースの歌は黄色い音楽を代表する音楽であり、黄色い音楽に関する記憶がふんだんに詰め込まれている作品である。ワイルドホースの歌を歌っているのが黄色い音楽の代表的スターであるエルヴィス・フォン(たいていの人は短編小説に描かれた架空の人物だと思っているが実在の人物)である。また『ベトナムの怪しい彼女』で歌われる劇中の2曲は、南ベトナムで反戦歌を作りチン・コン・ソン(政府によって歌は禁止されていた)である。

輝ける日々に(『サニー』ベトナム版)第31回東京国際映画祭

後編は
ベトナムアクション映画の興隆~ゴ・タイン・バンを中心に~」です。





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