マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

必然の143分が生み出す圧巻のラストシーン!
フィリピン2大巨匠の系譜
『マニャニータ』Q&Aレポート

10月29日(火)Q&A
EXシアター六本木
司会:コンペティション部門プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦氏
ゲスト:ポール・ソリアーノ監督ベラ・パディーリャさん(主演女優)

―――― 素晴らしい作品をありがとうございます。始めに一言ずつメッセージをください。

ベラ・パディーリャさん
こんばんは、作品をご覧いただきありがとうございます。

ポール・ソリアーノ監督
映画祭関係者の皆さん、ありがとうございます。
大好きな日本に来日することができ、3年振りにこの映画祭に参加することができ、本当に嬉しく思っています。ワールドプレミアをコンペティション部門で上映することができて光栄です。

―――― 監督は色々な作品を手掛けられていて、今回はゆっくりとした人間ドラマで脚本はラヴ・ディアスが参加しています。まず、この映画の成り立ちについて教えてください。

マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

ポール・ソリアーノ監督

ポール・ソリアーノ監督
実は少し前にラヴ・ディアス監督作『痛ましき謎への子守唄』(16)のプロデューサーをした経験があり、それから彼がメンターで私が学ぶという関係を続けています。あのようなスタイルや雰囲気は私も好きで、だからこそプロデュースもしたのですが、日本では小津監督がそういった物語性に富んだ作品を創っていた方かと思います。
今、徐々に私自身そういう流儀に入れるようになってきたと感じていて、映画のフィルムメーカーになって13年間が経ち、自分自身のスタイルをこのようなものとして確立しつつあります。

―――― レッドカーペットで初対面で、美しさに感動しました!この作品への出演の経緯を教えてください。

マニャニータ ベラ・パディーリャ

ベラ・パディーリャさん

ベラ・パディーリャさん
ありがとう!
『マニャニータ』は確かに身体的な特徴はあると思いますが、私が感じたのはそれ以上のものです。エディルベルタは非常に多くの悪霊と闘っています。
それはなかなか彼女自身表に出せるものではなく、それがポイントです。普段はどちらかといえば恋愛ものや主流タイプの作品に出ているので、このような実験的な映画のオファーを受けたのは初めてのことで、そのオファーにイエスと答えて本当に良かったと思います。
エディルベルタが色々な旅を経験していくわけですが、映画の中の彼女の歩みと、私ベラが女優として歩んだ道筋は実は重なるところがあると思いました。この映画の撮影は、最初から最後まで順番通りに撮影したので、まさに彼女の心情を私自身も覚えることが出来ました。監督やチームの力、支えもあり、ライフルの構え方の特訓なども準備したうえで、非常に満足のいく出来になりました。

会場から質問!

―――― 常に音楽とともにストーリーが展開しています。選曲は、数ある曲から選んでいるのか、各曲にこだわりがあったのか、フィリピンでメジャーな曲なのか、映画のために作った曲なのか、教えてください。

マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

ポール・ソリアーノ監督
この物語でいかに歌詞を通してストーリーを伝えたいと思っていたか、それをお伝え出来るのでご質問をありがとうございます。
選曲はかなり苦心をしています。実際に警察が歌っていた曲でもあったので、かなりその時代の音楽や歌詞を研究しました。その中で、深い歌詞に心を打たれて使いました。また、オリジナル音楽もあり、ラヴ・ディアスが詩を作ってくれたのですが、脚本の話をしている時にお願いしたら、その場で応じて、彼が歌ってもくれていて、録音し、実際に映画でも使っています。ラヴに私からお願いしたのは“父が娘にどのような想いを抱いていたのか。それを音楽にして欲しい”と伝えて出来たものです。

―――― ラヴさんが曲を作って唄っているのか、フィリピンで公開予定はあるのでしょうか?

ポール・ソリアーノ監督
正確にお伝えするとラヴさんが書いた曲は一つで、それは最後の彼女が涙を流しているシーンとベッドで横たわっているシーンで使われています。
フィリピンの映画館では12月4日の公開になります。

―――― とても感動しました。クライマックスの警察のコーラスがビックリしました。しかも実話であると。東南アジアかミクロネシアか、部族間同士の争いを歌合戦で解決する地域があったように記憶しています。何日間も歌合戦をしていくうちに憎しみが薄れていくと。警察が歌を歌うというのは、元々フィリピンの風土的にあるのでしょうか?

ポール・ソリアーノ監督
確かにフィリピン人はみんな音楽が大好き、文化の一部、アイデンティティの一部だと思います。みんな歌うのが大好きで、下手な人も大好きです。
音楽はとても大事なものだと思っていて、唄を使うようになった理由は、いわゆる麻薬戦争が行われています。警察官達は上司の命令に従わなければならない、大統領の指示にも従わなければいけない、それでも暴力を使うことはどうしても避けたい、抗いたいということで、であれば署長が歌ってはどうかと発案したそうです。そこから、歌うこと、歌詞の力で人々の魂に伝える行為をしてみたところ、必ずではなく毎回ではないにしても、平和を願う歌詞の気持ちが結果をもたらすこともあって、時機に何千人もの人が自首をしたそうです。歌うことを奨励していた警察の署長さんにお話を伺い「なぜ、歌うことにしたのですか?」と尋ねたところ、「薬を使ってハイになった時ほど、音楽って気持ちよく聞こえるんだよね。だから当然じゃないか」と。でも実際に歌を聴かせると、売人たちが涙を流しながら自首をしに出てきたそうです

―――― ラヴ・ディアス監督は脚本を事前に用意せず、当日にその日の分の脚本を俳優に渡すことをされている方だと思います。今回どういう形で脚本に参加をしたの?事前に用意したとは思えないのですが。

マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

ポール・ソリアーノ監督
仰る通りです!(笑)
何度か打合せもして私の方からコンセプトを伝えて、メールでのやりとりもしたのですが、その後、1、2か月後に彼から8ページの台本がきて「あとは君に任せた!」と言われました。そこに私の解釈や場面、あとは台詞を修正しました。基本的にはその8ページをベースにしています。

マニャニータ ベラ・パディーリャ

ベラ・パディーリャさん
こんなに短い脚本は始めての経験でした(笑)

―――― 撮影しながら自分がどうなるか日々知っていくような形だったのですか?

ベラ・パディーリャさん
確かにとても短い脚本なのでその日何が起きるのか、当日にならないとわからないこともありました。ポール監督は作品の全体像が頭の中にあって、何を目指していくかは最初に話してくれたので、方向性としては理解出来ていたと思います。
あとは撮影中にフレームの中でここまでしか動いてはいけないとか明確な指示を受けることもあるし、逆にエディルベルタならどうするのかちょっと考えて演じてみてと言われたりもしました。役者としては、演出的な指導と私が自由にできる部分のバランスが良くて、仕事としてもとてもやり易かったです。
何も指示を受けずにただただ歩いていなさいと言われることもあって、ものスゴイ体重が落ちたけど、劇中でビールを沢山飲んだのでその分でどっこいどっこいでした(笑)

マニャニータ ベラ・パディーリャ

―――― 時間の使い方が贅沢だと思いました。贅沢な時間が主人公の苦悩に対する感情移入を促したり、フィリピンの風景や生活を知ることも出来たり、主人公の人間性も知ることが出来たり、深くこの映画について考えたりする時間もあり、贅沢な時間が活用されていると思います。
タクシーを待つ時間、風景が変わらない街並み、商業映画は時間をいかに短くするかが一つの要素だと思います。この映画も物語の核心にもっと早いタイミングで到達することも出来たと思いますが、そうしていないことについて教えてください。

ポール・ソリアーノ監督
実は長さがどのくらいになるか分からなかったんです。長さが決まったのもポスプロに入ってからで、とにかく主人公を中心に描きたかった。彼女は本当に辛い思いを抱えていて、なかなか許すことが出来ない、そういう想いは瞬時には生まれない、彼女の求めている答えや解決策もなかなかみえていない。エディルベルタの気持ちを皆さんに伝えるためにも時間は必要でしたし、彼女の傷が癒えるのに20年以上の歳月が必要だったわけで、映画自体を20年には当然しないのですが、バランスを考えてトランスデンタル映画の手法である時間の使い方を自分なりに学んでこのように作ってみました。
王道のシネマではないと思うのですが、一つの旅路や歩み、もしくは迷走的な所を持っているのかもしれません。いずれにしても嬉しいお言葉をありがとうございます。

―――― 私は143分の長尺のこの映画が好きです!

(会場から大きな拍手が送られる中、Q&A終了!!)

マニャニータ ベラ・パディーリャ

マニャニータ ベラ・パディーリャ

マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

マニャニータ ベラ・パディーリャ ポール・ソリアーノ監督

ポール・ソリアーノ監督プロフィール

監督、プロデューサーとして映画賞を受賞。作品づくりへの情熱が高じ、制作プロダクションTEN17Pを設立。マニー・パッキャオの伝記映画『キッド・クラフ~少年パッキャオ~』はレイダンス映画祭や東京国際映画祭などで上映された。ラヴ・ディアス監督作『痛ましき謎への子守唄』(16)をプロデュースし、ベルリン映画祭で銀熊賞(アルフレッド・バウアー賞)を受賞。

あらすじ

主人公のエディルベルタは剛腕のスナイパーとして軍に仕えたが、顔の半分を覆うケロイドの障害を理由に除隊となってしまう。職を解かれた彼女は連夜バーで泥酔し、無為な日々を過ごす。そして1本の電話が彼女の運命を動かす…。

マニャニータ

解説 ※一部ネタバレあり

必然の143分が生み出す、圧巻のラストシーン!
ブリランテ・メンドーサの臨場感と静かで長回しが特徴的なラヴ・ディアス。世界の映画祭で脚光を浴びるフィリピンの2人巨匠のエッセンスがたっぷりと注ぎこまれた本作はドキュメンタリーのような映像表現をしつつ、少ない台詞に対する音楽や効果音で観客をフィリピンの日常に引き込む。
劇中歌にあるように誰からも愛されることがない孤独、そして目的のない人生。スナイパーとして活躍していた主人公エディルベルタは次第に酒に溺れていく。解雇により落ちぶれていくにしては彼女の闇はあまりにも深く、やがてそれは本来彼女が抱えている過去のトラウマの影響であることが明かされる。何十年も取り払われることがない傷を描くに、必然だった143分。彼女の苦しみ、癒えない傷の深さを十分に伝えていることをふまえるとたった143分なのである。
本作のタイトルでもある『マニャニータ』は警察の麻薬犯逮捕のための手段なのだが、劇中ではその単語を耳にするだけで実際の様子はなかなか出て来ない。しかし、ラストシーンで麻薬戦争により多くの死者を出しているフィリピンの現状に光を射しこむ『マニャニータ』が披露されると、彼女の心もまた開放される見事なラストである。
日本の映画ファンは“ポール・ソリアーノ”の名を覚えておくべきである。

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第 32 回東京国際映画祭
■開催期間:2019 年 10 月 28 日(月)~11 月 5 日(火)
■チケット絶賛発売中!
■会場:六本木ヒルズ、EX シアター六本木(港区) 、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場(千代田区)
■公式サイト:www.tiff-jp.net

第 32 回東京国際映画祭
2019年10月28日(月)~11月5日(火)

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