諏訪敦彦監督、『風の電話』は簡単に映らないことへの挑戦!『風の電話』×『恋恋豆花』クロストークイベントレポート【前編】

諏訪敦彦監督、『風の電話』は簡単に映らないことへの挑戦!
『風の電話』×『恋恋豆花』クロストークイベントレポート【前編】
モトーラ世理奈主演の映画『風の電話』(諏訪敦彦監督)が本日1月24日より公開、映画『恋恋豆花』(今関あきよし監督)が2月22日から公開となる。ともにモトーラ世理奈主演作の劇場公開を控える諏訪監督と今関監督が、23日(木)東中野にあるspace cafe ポレポレ坐でクロストークイベントを開催。
前半は「なぜクリエーターはモトーラ世理奈を欲しがるのか」と題して、両監督がモトーラさんの魅力はもちろん、両作品の感想も交えて映画にまつわる様々なトークを繰り広げた。
今関あきよし監督
諏訪監督とは同時代に映画を撮っていながら直接関わったことがなくて、そうだ、ベルリン国際映画祭に正式出品ということでおめでとうございます!!
諏訪敦彦監督
ありがとうございます。
(会場から拍手)

映画『恋恋豆花』今関あきよし監督
今関あきよし監督
『風の電話』を観て感動して、正直ショックで。同じモトーラ世理奈を使いながら、羨ましいというか嫉妬しました。

映画『風の電話』諏訪敦彦監督
諏訪敦彦監督
面白いですよね。『風の電話』を観た後に、『恋恋豆花』を観たらすごい体験になると思います。
今関あきよし監督
僕のイメージは『風の電話』はメインディッシュで、『恋恋豆花』はスイーツなのでメインディッシュの後にスイーツという順番は良いと思います。
諏訪敦彦監督
そうですね、そう思います。
今関あきよし監督
同時に3.11以降の今を描いているので、なかなか描きにくかったことが今やっと描けるのかなと。あと広島出身であるということで広島から物語がスタートしていること。僕も原発のことには興味があって、チェルノブイリへ行ったり、福島・岩手にも行ってたりしていて、余計に表現を悩んでいたけど、良い意味でストレートでちゃんと感情に訴えかけてくるし、色んな意味で嫉妬しました。
諏訪敦彦監督
今関さんはチェルノブイリも入られて作品も作られて、福島にも通われていて。僕はどちらかというと8年間は全く触れてこなかったですし、行きませんでしたし。今回『風の電話』で初めて行った感じだったんですよね。
今関あきよし監督
あと日本で撮るのも久しぶりだったんですよね?ほとんどフランスを本拠地にしているイメージがあったので。なんでフランスで撮るようになったのかも後でお聞かせください。
(ここで今関監督が諏訪監督に「僕のこと知っていましたか?」と聞いたことから、若かりし頃のお二人のエピソードが披露されました!19歳のころの出来事や平清盛役のことなど色々と)
今関あきよし監督
『はなされるGANG』がぴあフィルムフェスティバルで入選し、その後フランスの方にスイッチされていく過程が分からないですけど、まずはこの作品の予告をご覧ください。
『ライオンは今夜死ぬ』(2017年)予告
今関あきよし監督
分かる人には分かると思いますが、ジャン=ピエール・レオが主演でキャスティング含めて、経緯を伺いたいのですが、彼は『大人は判ってくれない』がデビュー作ですかね?
諏訪敦彦監督
正式にはデビュー作になっていますね。『大人は判ってくれない』で15歳かな、役は小学生です。
今関あきよし監督
なぜ、フランスへ?
諏訪敦彦監督
『H Story』という作品を撮って、これはアラン・レネ監督の『Hiroshima mon amour』をリメイクした、今思えばとんでもない企画だったんですけど、ややこしい映画でしたし、実感としてもう日本で映画を作る状況はなくなったなと感じたんです。それで逃げ出したというか、フランスに。
今関あきよし監督
それはヌーヴェルヴァーグの出発点のゴダールやトリュフォーを追っかけてのフランスなのですか?
諏訪敦彦監督
そういう内的なものもあるのですが、結果的に言うとフランスは映画に対する援助が非常に手厚いわけです。もちろん誰でも援助が受けられるわけではなく、競争率が高いので、大変なんですが。僕の映画に対する理解というものがフランスにはまだあって、フランスの助成金を引っ張る可能性があったわけです。
今関あきよし監督
映画の地位が高い国だという印象があります。
諏訪敦彦監督
高いというか、それは高くしたと思います。
元々高かったというわけではない面もあります。
助成金とかのシステムが充実しているわけですが、それは勝手に出来たわけではなくて、作り上げていった。映画で働いている人たちの境遇は日本とは全く違う。スタッフの社会的地位も高いですし、経済的にも安定した形で映画作りに参加出来ます。ただ、逆に日本みたいに自分たちだけで映画を作って、映画館で上映するみたいなことはなかなか出来ないです。
映画を凄く大切にしている社会だという気はしますし、映画は芸術であるという考えがハッキリしています。
今関あきよし監督
でも、フランスであのキャスティングでやるというのは大変なことですよね。
諏訪敦彦監督
映画を撮っている時ってちょっとアドレナリンが出ているというか、制作態勢に入っているというか。『風の電話』もそうですけど、今は制作じゃなくて、普段でしょ。普段の自分からするとよくこんなことやってたなって。
今関あきよし監督
ちなみに一番聞かれて困るタイプの質問ですけど、好きな映画って何ですか?
諏訪敦彦監督
ヌーヴェルヴァーグが自分にとってはやっぱり大きかったんです。ただ、トリュフォーとかはそこまで引っ掛からなかったのですが、やはりゴダールとかは非常に強く影響を受けたと思うし、ただジャン=ピエール・レオとこの映画を1本作って、ヌーヴェルヴァーグが去ったというか、呪縛から解けたというか。ヌーヴェルヴァーグという意識がなくなったというか、消えましたね。
今関あきよし監督
ちょこちょこ話が飛んじゃいますが、『風の電話』はモトーラさんの後ろ姿が凄く良いんです。カメラポジションが凄く良くて、それにやられました。即興演出も色々とあるでしょうが、カメラポジションが最初にやられましたね。どういう感じで選んでいるんですか?その前にちょっとこちらの映像をご覧ください。
岩手日報「最後だとわかっていたなら」風の電話ー夢の中で帰ってきたー篇
今関あきよし監督
僕もちょっとウルウルしてしまいますが、『風の電話』は架空の場所ではなく実在する場所です。知っている方も多いと思いますが、震災以降亡き人に声を届けるというか、自分の想いを伝えるというか。
諏訪敦彦監督
この方は実は『風の電話』にも出演してくださったんです。編集で使わなかったんです。この人はいつも電話で泣いちゃって、夢の中でチューをしちゃうんです。チューしてハッと目が覚めたら仮設の天井だったって。感動的な話なんですけど、映画の中でも実際に電話をしているシーンを撮らせてもらって最後まで悩んだのですが、今回は使いませんでした。
今関あきよし監督
ある種ここが救いになっている人もいるのだと思います。『風の電話』のオファーはどのような形だったのですか?
諏訪敦彦監督
これは初めての経験なのですが、プロデューサーからこういう企画をやってみませんか?と。初めてお会いする方で、原作があるわけではなくこういうモチーフがあり、これを映画にしたいんだと。今の映像やNHKが作ったドキュメンタリーも拝見して、これはどうすればいいかなと。
今関あきよし監督
実際にシナハン(シナリオ・ハンティング)に行かれた印象としてはどうですか?
諏訪敦彦監督
(国道)6号線を通って福島をずっとみて、映画を制作するという視点で福島、岩手を見ていくことになりますよね。ある意味で8年経っているので、その時の傷跡っていうものが簡単にカメラに映るものではないというのが実感だったんです。だけど、普通の風景ではない。
例えば、第一原発の近くの町とかは帰宅困難が解除されて町は復活しているけども、家はポツポツみたいな。建っている家は綺麗だし、道は整っているけど、すかすかなコミュニティで。人の気配がほとんどしなくて。車で走っても家はあるけど人は見かけないわけです。あっ、いたと思ったら小っちゃい男の子が立ち小便をしていたり、衝撃的な、あそこに人がいたって。
そんな異様な感じ、これは切り取れば簡単に映像になるようなものではない、簡単に映らないということが僕にとっては一つの挑戦だったというか、簡単に映らないから初めてそこで何かやろうと思えたというか。
僕は逆に震災直後にカメラを持って行く気はしなかったんです。それは撮っちゃうからね。こんな風景があるとか、こんなことが起きているということを撮れば映るし、だから撮っちゃうと思うんですよね。それが何になるんだというか、僕はそういう風に思ってしまったので、そこには行かないと決めたんですけど、見えなくなったからこそ映画にできることがある気がして。
今、ドキュメンタリーの映像を見て、確かにこれをみると涙が出ちゃいますけど、でもこれにはちょっと違和感があって。この方はお話するのが好きだからいいのですが、普通は誰も聞いていないからあそこで喋られるんですよね。
今関あきよし監督
そうですね。
諏訪敦彦監督
誰にも絶対聞かれない、そういう風に人を守ってくれる場所なんです。でも、孤独にならなくて済む、誰かの気配があって、だけど一人で誰にも聞かれないから初めて自分の本当の言葉を喋れる場所。
今関あきよし監督
教会の懺悔する場所の延長線上にあるような印象もあります。
諏訪敦彦監督
そうですね、ただ相手がいるわけじゃないじゃないですか。神父さんが聞いているとかではなく、たった一人であるということがとても大事な気がして、それをドキュメンタリーだから撮らせてくださいとやるわけですけど、それを見ていていいのかなとか、ある意味で見られたくないもの、見てはいけないものを見せることによって引き起こされる感情なんですよね。だから、フィクション映画で出来ることがあるんじゃないかって。そういう風に思えるようになって。
secret road show 野外上映「彼女は緑の光に彼を想う」
今関あきよし監督
人を使わないで電話ボックスを主演にした、短編映画(『彼女は緑の光に彼を想う』)を撮るのが精いっぱいでした、当時。で、あえてまだ人がこない段階での線路上で上映をした。これはプロジェクターとスクリーンを持っていって、出演してくれた人たちと一緒に観た時の映像です。
諏訪敦彦監督
インスタレーションですよね。
だから、最近よく考えることなんですけど、今関さんは単にドキュメンタリーとして風景を撮ってくるだけじゃなくて、そこに何かを置いていくというか。ドキュメンタリーのカメラって撮って持って帰ってくるわけですよね。撮って捕獲して帰ってくるというか、だけど、自分の制作行為をそこに置いていくというか、そういう行為ってすごい大事なんじゃないかなって。
今関あきよし監督
ドラマにはなかなか手を付けられずに、こういう形でやってみました。で、いよいよ明日から『風の電話』が公開となります。
映画『風の電話』予告編
今関あきよし監督
あえて正反対の『恋恋豆花』の予告編もご覧ください。
映画『恋恋豆花』予告編
今関あきよし監督
全くタイプの違う映画になりますが。
諏訪敦彦監督
でも、僕は結構似ていると思います。
今関あきよし監督
どこが??

モトーラ世理奈『風の電話』
諏訪敦彦監督
もちろん見え方は全然違いますけど、どっちも食べるわけですよね。食べることがドラマよりは大事。モトーラさんが演じている役は陰と陽で、『風の電話』はほとんど口を利かない存在なんですけど、そこは対照的なんですけど、旅をしていくということが両方の映画に共通していて、しかも『恋恋豆花』も物語を語ることに集中した映画ではないと思ったんです。この親子の葛藤というのは、それほど大変な葛藤じゃないんですよね。おそらく大丈夫だろうなっていう関係ですよね。不満はあるが、まあ大丈夫なんだろうな。ドラマを語るために映画があるわけじゃなくて、時間がいかに持続していくのかということにかけられているような気がして、そこに僕は結構迫力を感じたんです。

モトーラ世理奈『恋恋豆花』
今関あきよし監督
ありがとうございます。
諏訪敦彦監督
とにかくこれを持続していくんだという、そういう映画を撮り続けるんだという、そういう感じがすごいしました。スゴイなと思いました。
『風の電話』も食い続けていますからね。
今関あきよし監督
三浦友和さんも「ほら、食え」と。三浦さんのシーンも凄く好きです。
諏訪敦彦監督
みんな「食え」って言っていますからね、必ず一回は。
今関あきよし監督
食堂で食べるシーンもモトーラさんの後ろ姿で表情は見えないけど、あれが凄く良いです。「食」と「旅」の中で色んな人と出会ったり。
諏訪敦彦監督
僕はその狙いはなかったんですけど。ただ、とりあえず拾っちゃって、家に招き入れたらとりあえず食わすしかないというか。なので食べるシーンになっちゃっているんですけど。やっているうちにそれでいいんだなっていうか、ただ食べている。みんなが一緒にご飯を食べている場所というのが、とても重要だなと思って、だいたい僕たちはそういう場所から世界を見ていると思うんですよね。
映画ってもっと描いている世界を陰の視点から描くことも出来るわけなんですけど、僕はモトーラさん演じるハルの視点でこの日本を見ていこうという気持ちがどこかにあったのだろうと。だからカメラポジションも彼女の後ろから撮っているというポジションに入ってしまったのだろうなと思うんです。
ここでお二人の監督の共通項であるモトーラ世理奈さんの登場です!!
モトーラさんを交えたトークは後半へ続く!!
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