第2回【新潟県新潟市】市民による監督応援 インディーズ映画の発掘上映

新潟,藤井道人組

and pictures地方上映特集
【連載第2回】
市民による監督応援 インディーズ映画の発掘上映

藤井道人ムービーセレクション VOL.2

文:中村賢作
(新潟・市民映画館シネ・ウインド会員)

誰もいない早朝の海辺、一人座って遠くを眺める青年。或いは、制服の高校生二人、将来の不安について、軽口を叩きながらもどこか切なげで、それぞれの思いにふける閑散とした海辺。または、乗客がまばらな電車のシート、ぼんやりと外の風景を眺める主人公。

昨年12月、新潟で、藤井道人監督の短編映画を上映させて頂く機会を得た。『埃』(2011)、『東京』(2013)、『寄り添う』(2014)の三本である。

新潟,藤井道人組

「新潟藤井組」結成

筆者は、市民が運営する新潟・市民映画館シネ・ウインドにおいて、90年代中期以降、同館にて主に日本映画の上映企画に携わってきた。今回は『青の帰り道』の上映をきっかけに集まった藤井監督を応援する「新潟藤井組」としての企画である。

最初に『青の帰り道』上映委員会を発足させたのは、市内在住の清野明日香さんである。彼女はSNSを駆使してメンバーを集め、『青の帰り道』新潟応援団としてシネ・ウインドでの上映を盛り上げた後、藤井作品すべてをリスペクトする「新潟藤井組」を結成し、筆者もその趣旨に賛同し参加させていただいたものである。

「新潟藤井組」の活動としては、昨年11月にシネ・ウインドにて、監督作品を四本上映する企画を実行し好評を得た。そして12月、シネ・ウインドが他のイベントの都合で使用できないことから、上映会場を、新潟市内の専門学校が所有するシアターに移し、今回の藤井監督の短編映画上映会となった。

新潟,藤井道人組

青の帰り道』、そして先頃発表された日本アカデミー賞では最優秀作品賞を受賞した『新聞記者』等、話題作を次々に発表している今年まだ三十三歳の若き藤井監督だが、短編映画を含め既に20本以上の監督作品を手掛けている。その中で特に監督自身が思い入れの深い短編映画を自薦していただいての上映会となった。上映後、藤井監督自身に登壇していただき、それぞれの作品に対する思いを語っていただいた。

『エターナル・サンシャイン』と藤井道人

『エターナル・サンシャイン』で映画の道へ

その中で、監督が高校生の頃に鑑賞し、映画の道に歩みだすきっかけとなった作品として、アメリカ映画『エターナル・サンシャイン』(2004年 チャーリー・カウフマン脚本 ミシェル・ゴンドリー監督)のことを話された。実は未見だった私は、監督の作品世界について考えるきっかけにしたいと考え、先日初めてDVDで鑑賞したのだが、軽いラブコメ程度にしか考えていなかったのに、奇抜なストーリーと斬新な映像で、ぐいぐいと物語世界をひっぱっていく驚きの傑作だった。

こんな凄い作品を知らずにいた自分の不明を恥じた。と同時に、この作品のプロローグ、ジム・キャリー扮する主人公が歩く冬の浜辺、または乗客がほとんどいない列車内、その寂しくもどこか気持ちを落ち着かせてくれる空気感にどこか既視感を憶え、それが前述の藤井作品のシーンの数々であることに気づくのに長くはかからなかった。

新潟,藤井道人組

新潟,藤井道人組

『埃』は、心の治療を受けている若者たちが、医師の別荘で過ごす一日を描いている。
『東京』は、地方からそれぞれ夢を抱いて東京に出てきた若者たちの挫折や苦悩を描き、
『寄り添う』は、進路に悩む高校三年生の少女の、夏のひと時を描いている。

傑作『光と血』

思えば藤井作品の登場人物の多くは、生き方に悩み、つまづき、苦しむ人たちだ。『青の帰り道』の若者たち然り、『7s セブンス』も、『デイアンドナイト』も、『新聞記者』だってそうだ。実際に、人生を器用にわたっていける人間ばかりがこの世に存在しているわけではない。現代社会への違和感、疎外感、現実の重さに悩み苦しむ。かと言って藤井監督は冷徹なリアリストではない。

その事が端的に示されているのが、2017年の傑作『光と血』である。様々な悲劇や試練が登場人物たちに降りかかるこの作品で、そんな悲劇に見舞われた人びとの姿を、あたかも何事もなかったかのように桜並木に蘇らせてみせる見事なラストシーンを描いてみせたのだから。人間はやり直せる、立ち直ることができる。そのことを何よりも深く願っている藤井作品の精神をみることができる。

寂しくもどこか心を落ち着かせる海辺の風景、ガランとした車内で何をか思う人たち、それらはすべて『エターナル・サンシャイン』に描かれていた空気感であると同時に、登場人物たちを突き放すのでもなく庇護するわけでもなく、ただ優しく包み込むような、そうした精神の表れでないかと思う。

映画監督・藤井道人とは

シネマスコープへのこだわり

そしてスクリーンサイズが、短編三作ともシネスコであったことに驚きを禁じえなかった。『オー!ファーザー』に始まる藤井監督の劇場映画の大部分がシネスコで撮られている。ビスタサイズが大勢を占める中、シネスコにこだわるのは、タランティーノと藤井道人だけだろう、というのは冗談にしても、確かにスクリーンサイズとしてのシネマスコープは、劇場での映画体験の醍醐味であるのは間違いないのだが、往々にして小規模なホール上映やネット配信で終わるかもしれない出自を背負わされがちな短編の自主映画までもがシネスコで製作されていることに、作り手の作品に対する熱量の高さを感じるのだ。

シネマスコープとは

横縦比がおおよそ2:1以上の横長の画面サイズのこと。20世紀フォックス社の登録商標である「シネマスコープ」の略称である「シネスコ」と呼ばれることが多く、ビスタビジョンより横長の画面の総称としても用いられることが多い

(参照元)Wikipediaより

監督にとって、それが長編の商業映画だろうと短編の自主映画だろうと関係ない、あくまでそれは「映画」である、ということ。様々な人たちが、暗闇の中で目を凝らしスクリーンに対峙する、そのために作品の世界を創出しているのだという気概を強く感じる。

新潟,藤井道人組

常に社会の矛盾と対峙

そんな藤井監督の作品作りに対するモチベーションとは何か。

前述したように、上手く生きられない登場人物たちを多く描く藤井監督は、生きづらい社会に対する異議申し立てを強く訴えかけているのだと思う。学生時代から映画の現場を体験し、卒業してすぐに会社を立ち上げた監督にとって、実社会の生きづらさはそのまま、映画作りの現場での人びととの関わり合いの中から生まれたものであったろう。日本では是枝裕和が、イギリスではケン・ローチが、アメリカではトッド・フィリップスが、そして韓国ではポン・ジュノが、近年世界で話題になった映画の作り手たちが、すべて貧困や格差社会をテーマにしていることは、多くの知識人や評論家が指摘している通りだが、藤井道人監督は、作り手としてスタートした当初から、そんな社会の矛盾を一手に引き受けてきたように思う。

新潟,藤井道人組

新聞記者』のオファーを、政治や時事問題に詳しくないから、と当初は断ったというが、社会を通して人間を描いてきた藤井監督は、面として映し出される事件や問題ではなく、そこに係る人間たちの苦悩や思いを無数の点や線として散りばめたからこそ、従来の社会派映画にない、より人間臭い作品を完成させることができたのだ。

そして『新聞記者』の日本アカデミー賞最優秀賞受賞により、一躍、前述の巨匠たちに比肩しうるポジションに躍り出た藤井監督だが、その力量はまだまだ未知数だ。短編映画を数本鑑賞できただけでもそう思う。まだ観ぬ短編作品にも、今後どんどん出会っていきたい。

■映画監督 藤井道人

1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)でデビュー。以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)など精力的に作品を発表。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。新作映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』(今秋公開予定)が控える。

■中村賢作 (新潟・市民映画館シネ・ウインド会員)

新潟・市民映画館シネ・ウインド、85年設立当初より会員。90年代中期以降、同館にて主に日本映画の上映企画に携わる。映画芸術誌・日本映画ベスト・ワーストに2002年より参加。
「藤井道人ムービーセレクション」は『青の帰り道』をきっかけに集まった藤井道人監督を応援する「新潟藤井組」としての企画である。

■新潟・市民映画館シネ・ウインド

1985年3月、新潟市内の名画座「ライフ」の閉館をきっかけに「市民の手で運営する映画館」を、齋藤正行(現シネ・ウインド代表)が提唱。一口1万円の出資を広く募る活動を行った。非営利な会員組織「新潟・市民映画館鑑賞会」と、その事務局機能を担い、映画館の管理を行う法人「(有)新潟市民映画館」を設立。同年「新潟市民映画館シネ・ウインド」開館。
2013年には「デジタルシネマ設備募金プロジェクト」を成功させてデジタルシネマ機材を導入。歴史ある35ミリフィルム映写設備も保持し、様々な上映素材に対応する。

〒950-0909 新潟県新潟市中央区八千代2丁目1-1 万代シテイ第二駐車場ビル
https://www.cinewind.com/

■株式会社 and pictures

短編オムニバス企画「Short Trial Project」シリーズや長編映画を製作。

市原隼人主演『ホテルコパン』(16)、松雪泰子主演『古都』(16)、真野恵里菜主演『青の帰り道』(18)、三浦貴大主演『栞』(18)、阿部進之介主演『デイアンドナイト』(19)、池内博之主演『逃亡料理人ワタナベ』(19)ほか。公開待機作に三吉彩花主演『Daughters』(20)、大橋裕之原作/竹中直人・山田孝之・斎藤工監督『ゾッキ』ほか(21)。

映画製作をきっかけとした地域活性化プロジェクトの推進、俳優向けの演技ワークショップやプラットフォーム開発で映画産業の発展を目指す。

and pictures地方上映特集とは

「地域上映」は、劇場のない地域では公民館や学校で上映するなど、土地土地の目的や事情による多様なスタイルで行われてきました。その結果、地域にコミュニケーションを生み、人々を活気付けてきました。(省略)映画製作会社and picturesはこの連載を通して、上天草・新潟・金沢・鳥取といった4地域の上映を振り返り、映画を様々な角度から見つめ、これからの、映画を分かち合える場所を探していきます。

映画を分かち合える場所探して[and pictures地方上映特集 全5回連載]より

and pictures

https://andpictures.jp/



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