【連載】アクション映画『TRAVERSE トラバース』の魅力を紹介!/ブルース・リー研究家/ちゃうシンイチー さん

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アクション映画『TRAVERSE トラバース』の魅力を紹介!
ブルース・リー研究家/ちゃうシンイチー さん連載企画

昨年公開され、話題を呼んだアクション映画『TRAVERSE トラバース』。CGやワイヤーを一切使わない、本格的なアクションが披露された本作の魅力を“ブルース・リー研究家/ちゃうシンイチー”さんにたっぷり語っていただきました!連載形式でご紹介していきますので、お楽しみに!!

“ブルース・リー研究家/ちゃうシンイチー”さん
トラバースの魅力を語る

先頃、一見掴みどころのない謎の和製武術アクション映画がソフト発売された。岡田有甲監督・田部井(ためがい)淳主演「TRAVERSE トラバース」である。

この2020年はブルース・リー生誕80周年を記念した「ブルース・リー4Kリマスター復活祭2020」や、この10年間の香港功夫映画を牽引した人気シリーズの最終作「イップ・マン 完結」の全国的な話題とヒットによってこの種のジャンル映画に久々に注目が集まる中、ドイツの「ハンブルク日本映画祭2020」での好評を受けての堂々ソフト化である。

このジャンルの宿命と言うかお約束と言うかご多分に漏れず受賞は逃したものの、予告編オンライン視聴者数は断トツで、本編も「闘いが本物だった」等の称賛が寄せられる人気ぶりだったという。未だに、東洋産武術映画は海外でも注目を浴びることを証明したのだ。
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この作品、実は2019年6月よりロードショー公開され、先行公開の愛知県豊川コロナシネマワールドでは「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」「アラジン」ら並み居る他作品を退けて2週間週末1位の動員を果たし、東京・渋谷ユーロスペースでも大好評を博した。

今も主演の田部井淳氏や岡田監督を中心とした舞台挨拶を名物に、全国上映を展開している現在進行形の作品なのである。

カンフー映画やカラテ映画が何度ものブームを迎えて此の方久しいが、実は近年、国内でも「ハイキック・エンジェルス」「テコンドー魂〜Rebirth〜」(2014)、「DRAGON BLACK」(2015)、「カラテ・キル」(2016)、「RE:BORN」(2017)などその規模の大小やジャンルの区別に関わらず、ヒタヒタと作られては様々な話題を提供してきた。

とりわけ「RE:BORN」の異例のヒットは記憶に新しく、このジャンルがまだまだやり方次第でイケるという手応えを見せた。こうした流れの中にひょっこり出てきたのが今作「トラバース」であると捉えるファンも多くて当然なのだが、どうも趣を異とするように感じるのだ。

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こうした武術アクションを見せ場とした作品には2つの潮流がある。主人公個人の持つ特殊な格闘技術そのものを映画と言う受け皿で見せたいケース、もう一つはエンターテイメントの中の一つのツールとして武術シーンを見せるケース。

平たく言えば前者の代表がブルース・リーやドキュメンタリー「地上最強のカラテ」であり、後者はジャッキー・チェン、千葉真一であると言えよう。

しかしながら今作はそのどちらにも属さない。作品のテーマと主人公の武道理念をドラマ上でシンクロさせ、その想いを格闘アクションに込めるケースである。よって、田部井氏は彼の興した豊空会空手の技術そのものを映像上で見せることはしない。

アクション監督の指示(つまりドラマの理念)に従いそこに自分本来の動きを落とし込むと言う手法が取られたのだ。田部井氏のようなオリジナリティある武術家が「オレならこうする」と言った解釈のアクションを放棄すると言うのは異例であり、空手家なのに空手着を着て闘わないことも含め、エンターテイメントとドラマを優先することで氏の技術よりも武道理念がそこに反映されることを選んだのである。

それは対戦相手役が総合格闘技の元チャンピオン(終盤登場の殺し屋コンビの一人を神酒(三木)龍一が演じた/元フライ級キング・オブ・パンクラシスト、元修斗世界フライ級王者)であっても、空手vs総合格闘技たる構図を描かないことからも窺える。

では、その田部井氏が最優先させた空手理念とは何なのか…それは後述するとして、この作品は誰が観ても疑うことのできないB級作品である。

もとより国内武術アクション映画は存在自体をB級と目されるが、他のそれと比べても決して上位に来るものとは言い難い。しかし、この作品特有の違和感とでも言うべき見どころは一体阿辺にあるのか?そこに先ず着目したい。

そもそも岡田監督には今作に対する二つのテーマがあった。新たな格闘技アクションを撮るとは言え、そこには日本のアクション文化の原点たるチャンバラの間合いや美学を投影したい。

そして、自分も熱狂したブルース・リー映画の熱気を再現したい。むしろそうすることが今までに無かったアクションの構築に繋がるのではないかと考えたのだ。

岡田監督は、奇しくもジャッキー・チェン出演、サモ・ハン監督の人気作「香港発活劇エクスプレス 大福星」(1985)日本ロケ・シーンにおける助監督の一人だった。当時のサモ・ハンとの意見のぶつかり合いなどを経て心中期することもあっただろう。
また登場人物の一人、中国マフィア秘書メイリンは、あの「燃えよドラゴン」の女諜報部員メイ・リンから名付けたというお遊びもある。決して対抗意識だけではなく、香港映画の影響をも重々承知してのベクトルが今作のベースであり、味付けのヒントとなっているのだ。

思えばこの田部井氏、公表はされていないもののかつては和道会や極真会館の門をくぐって指導員となり、更には千葉真一率いるジャパン・アクション・クラブ(JAC)でもアクションを磨いた人物である。

日本独自の格闘映画を…と指向する岡田監督の野心を知ってか知らずか、田部井氏の中には「地上最強のカラテ」と「JAC」と言う正に日本アクション文化の血が流れていたのは興味深い。

ところが、田部井氏がこうした経歴の持ち主だからと言って千葉ちゃん風のゴリゴリ格闘術を見せるのか?と言うと、これがまた全く違う。

白善哲アクション監督の殺陣センスは非常に幅広く、前半のマリーナでの1vs多数戦こそ80年代以降のジャッキー・チェン演出を彷彿させるが、後半において切れ味鋭く、田部井氏が持つ空手技術とはこういうものか!とすっかり勘違いさせるほどの妙味を見せてくれる。

クライマックスでの2人組の殺し屋との闘い。ここは筆者のお気に入りのシーンでもあるのだが、足技を得意とする相手に対し見せる主人公の蹴りのタイミング。これこそが本物の武道家の真骨頂である。

相手のハイキックの蹴り終わりを狙ってその蹴り足を蹴る、相手の蹴り足が着地するタイミングを狙って足払いをかける…。

また怨敵・雅人との闘いでは、日本刀を持った相手に対しゼロ距離戦術とも言うべき「背中合わせになることで刀の射程距離を殺す」と言う渋い展開も見せる。

フルコン系空手の実践者でもある白善監督のリアリティが冴えわたる場面だ。ボンクラ・マニアには伝わりにくいかも知れないので、ここは是非注視して頂きたい。
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さて、自分本来の格闘技術を演出上は封印した田部井氏だが、かと言って氏の独自の空手技術が全く封印されたわけではない

クライマックスの一騎打ち最終盤では「筋力の全てを失った主人公がその体内に存在する液体素材の力学運動を利用して勝つ」と言う、全てを失った人間が本来自分の中に内在する力を奮いだすことで困難を乗り越える…正に武道理念とアクションが合致した戦いが展開される。

失礼ながら筆者はその動きの独特さにクネクネ戦術と軽薄な呼び名を付けてしまったが、これはこの作品でしか見ることのできない特殊なムーブメントである。
「人の体は水…」とのセリフに導かれ、体をクネクネと動かし続けるこの戦術は一見奇異に見えて、その実、筋肉の瞬発力ではなく体内にある血液など全ての水分(成人男性で体重の実に60%)を、自ら身体の様々な部位を揺り動かすことで生まれる重力など自然界に潜む身近な物理法則の力を借りて打撃に応用しているのだ。

これは素晴らしい発想なのだが、映画ではイマイチ伝わり難いのが非常に勿体ない。作品を観た人なら「そういう意味があったのか」とその原理に驚きと納得を覚えるはずだ。また、この特殊な動きで豊空会の空手家たちが闘っている訳では決してなく、これはその訓練方法を映画の見せ場・比喩表現として応用したに過ぎない。

そこは、本当の戦いなら一瞬で終わってしまうものを映画の形を借りた長尺展開によって大衆の理解を得ようとしたブルース・リーの意図と通じると思うのだが如何だろうか?あの「ドラゴンへの道」のチャック・ノリス戦のように。

また、ブルース・リーで有名になったフィリピン武術カリに似た二本の棒(特殊警棒)で戦うシーンや、これまたブルース・リーやイップ・マンで有名になった中国拳法・詠春拳の練習用ダミー「木人」を叩くシーンがあるがこれらは既存の作品からの転用発案ではない。

全て田部井氏が学んできた日本武術の中にある素材であり独自の用法なのである。そういう意味ではこれまでの香港アクション映画のそれと日本のチャンバラ・アクションの似て非なる違いを見比べるのもこの作品の楽しみの一つと言えよう。

空手家・田部井氏が描いた武道理念のドラマ化と、岡田監督の標榜した日本本来の文化たるアクションを今の時代に…という2本の道のクロスオーバーこそが、この作品の持つ独自の違和感であり、最大のポイントではなかろうか?

主人公が見せた最後の不思議な戦術は比喩表現である。妻を失い、絶望の果てに空手まで捨て、その激しい怨恨と憎悪をもってしても越えられなかった暴力の壁に、大切な人を護りたい一念が新たな乗り越える力を与える。

傷つき倒れ、技術や肉体の限界を極めた果てにあろうとも、人と人との強い繋がりがもたらす法則性はきっと困難を乗り越え(トラバース)させるのだという理念を、水分(自らに内在するもの)と重力(自然などの環境素材)というどこにでもある法則性を取り込んだ戦術として昇華させているのだ。

その田部井哲学は、やがては妻の仇を討つ寸前まで行きながら「そんなの強さの証明じゃない!」と、止めを刺すことが強さの尺度ではないことさえ語る。

暴力を超えるカギは暴力の中には無い…そう諭されているようだ。空手であろうとマフィアであろうと、暴力の魅力を描いた作品であるにも関わらず、最終的にはそれを否定する矛盾。それこそがこの「トラバース」の、見落としがちな本来の魅力に思えるのだ。

格闘場面への興味や演者の魅力だけでなく、その本質的なテーマを読み解きながらこの作品を俯瞰した時、この作品は更なる味わいをもたらしてくれるに違いない。

ちゃうシンイチー

“ちゃうシンイチー”さん プロフィール

画像,ちゃうシンイチー,原真一本名:原真一、大阪府出身
ブルース・リー研究家、ブルース・リー同人誌「小龍記」発行人。
ブルース・リー啓蒙活動を中心にトーク・ライブ、イベント、各種メディア出演、ライターなど全国展開中。2018年より活動拠点を東京から関西に移動。

~主なメディア出演歴~
■NHK BS:熱中スタジアム「ブルース・リー」前編 後編 2010年
■WOWOW:特番『ドラゴン旋風!~ブルース・リーの伝説と遺産』 2010年
■MBS:ニュースVOICE「ブルース・リー没後40周年」 2013年
■TV朝日:侃侃諤諤「ブルース・リーvsジャッキー・チェン」、他  2013年
■TV朝日:中居正広のミになる図書館「ブルース・リー がっかり伝説」 2015年
■日本TV:ヒルナンデス!「ブルース・リー/ヌンチャク」 2016年
■TV朝日:お願い!ランキング/お願い!総選挙「史上最強のアクション・スター」 2017年
■スーパーロボットレッドバロン フォトニクル [DVD+図録集]映像特典インタビュアー 2014年
その他、多数。

~主なライター歴~
■ブルース・リー米国NEWSLETTER「BRUCE LEE CHRONICLES」 編集/レイアウト
■ディアゴスティーニ「傑作カンフー映画ブルーレイ コレクション」全30号 コラム/取材・構成/他
■ブルース・リー同人誌「小龍記」、発行は150種以上
その他

~劇場トーク・イベント出演、舞台挨拶MC、など~
■TOHO シネマズ、HUMAX池袋、シネマート心斎橋、元町映画館、新宿ピカデリー、新世界東映、他
その他トーク・ライヴ、イベント出演やプロデュースなど、多数。

作品情報


公式サイト:https://www.traverse.mx/
Blu-ray&DVDのご購入はこちらから

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