
ロマ女性ティティの魂は炎の熱さにも負けない
映画『ティティ』感想
六本木で開催中の第33回東京国際映画祭からTOKYOプレミア2020選出イラン映画『ティティ』(TiTi)。
イランの女性監督アイダ・パナハンデが描く本作は、差別の根深さを痛感すると同時に身近な言動を振り返るきっかけを与えるような作品。映画ログスタッフのどこよりも早い感想レポートです!(日時・場所・チケットは映画祭公式HPでご確認下さい)
映画『ティティ』感想
※この感想には一部ネタバレが含まれます。鑑賞前の方はご注意ください。
物理学者のイブラヒムとロマで病院清掃員のティティ。何の接点もない2人が病院で出会う。ロマとは、浮浪者のことで定住せず移動生活をしている人が多いとされるが、文字を読むことが出来ない彼女の現実は想像を絶するものだ。
脳腫瘍で入院したイブラヒムは入院中も数式の証明に夢中。ついには、ブラックホール拡張理論を証明したと思われたその時、倒れてしまう。幸い一命を取り留めたが、妻は数式が書かれた紙を捨ててしまう。さらに、妻からは離婚を宣告されることに…。
途方に暮れる中、ティティがその紙を持ち帰ったことが分かり、彼女を尋ねることに。そこで、徐々に明らかとなるティティの苦しい生活。彼女は婚約者の借金返済のため代理出産の妊娠中なのだ。産後に産んだ赤ん坊の顔を見ることさえ許されない彼女は、いつか自分の子どもを産みたいと願うのである。
一方、イブラヒムにとって大切な紙は婚約者アミル・ササンが持っていて、彼は仕事のためしばらく家を空けている。ササンを待つ間、徐々にティティの現実を知ることになるのだが、自分の家を造っていて「レンガが高いからお金が必要なの」とか、「代理出産は一度目」など彼女のつく嘘や、帰ってくるササンと再会するためおめかしをして美しい姿を見せるティティが何とも切ない。
ようやく登場するササンだが、心が温かいティティとは釣り合わないタイプ。
ティティがイブラヒムに特別な感情を抱いていると感じたササンは、紙の返却を拒絶。その発見が世の中を救うことになると説得するティティの頼みを聞かず、イブラヒムには「白紙しか持っていない」「ティティは気が狂っているから嘘をつく」など散々な侮蔑を発するのだ。とても、婚約者とは思えない言動の数々に観ているこちらも怒りさえ感じる。
ササンが本物の紙を持っていると分かった彼女はイブラヒムの元に向かうが、ティティを疑い、離婚した妻と娘の生活を邪魔してしまうイブラヒムもまた女性の気持ちを理解しようとせず、偉い学者であろうと男として人間として失望したと言い放つティティ。どうしようもない婚約者ササンと同類に見なされることで、この映画は多くの男性にとって他人事ではなくなるような気がする。
世の中には当たり前の権利さえ主張することが出来ず苦しんでいる人々がいること、そして、レベルはそれぞれあるにせよ、自分の身の回りにも常に差別が隣り合わせで存在していることを痛感した。
映画『ティティ』予告動画
キャスト
エルナズ・シャケルデュースト
パルサ・ピルーズファル
ホウタン・シャキバ
監督:アイダ・パナハンデ
ワールド・プレミア
公式HP:dreamlabfilms.com
103分/カラー/ペルシャ語/日本語・英語字幕/2020年/イラン/©2020 Evar Film Studio
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