
【音楽に注目!新作レビュー】
『こちらあみ子』
今村夏子の代表作を新鋭・森井勇佑が映画化。広島の海辺の街を舞台に無垢な少女・あみ子と彼女をとりまく家族や友人の姿が描かれる。

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
幼い主人公が死に向き合うとき、どのような行動をとるか、という題材はビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』や、相米慎二の『お引越し』など様々な作品が取り上げてきたが、森井監督はこのテーマを、とりわけ“音”にフォーカスして表現する。

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
オーディションにより抜擢されたという、あみ子役・大沢一菜の存在感はもちろん、母親役・尾野真千子と父親役の井浦新の演技のコントラストも秀逸。豊かな自然に包まれているかのような感覚を覚える波や樹々のざわめき、あみ子の顔から滴り落ちる汗の音、しんと静まり返った屋内、あみ子の頭の中で鳴るノイズ、様々なシーンで音だけで状況や登場人物の心境が説明される。そして、初めて映画音楽を手掛ける青葉市子の奏でる繊細な空気感も物語全体のトーンを決定づけている。
果たして私たちは、あみ子のように心の声を真摯に聞こうとしているだろうか。一見破天荒に見えるあみ子の態度を通して、耳をそばだてることの大切さを教えてくれる。とにかく最初から最後まで、音と気配に注意して感じてほしい作品だ。

©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
文:駒井憲嗣
『こちらあみ子』予告編映像
あらすじ
あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」―――。奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。
出演
大沢一菜 井浦 新 尾野真千子
監督・脚本
森井勇佑
原作
今村夏子
音楽
青葉市子
2022年/104分/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch
配給:アークエンタテインメント
公式HP:https://kochira-amiko.com/
©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
7月8日(金)新宿武蔵野館他全国順次公開
コメント