ブラック・パワーと1969年の空気を描く映画『パトニー・スウォープ』
- 2022/7/21
- 映画評
- アーノルド・ジョンソン, パトニー・スウォープ, ロバート・ダウニー, ロバート・ダウニー・ジュニア
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【音楽に注目!新作レビュー】
『パトニー・スウォープ』
ある広告会社でかたちだけの幹部だった黒人の男パトニー・スウォープは、創業者の死をきっかけに突然社長に就任、過激な演出のCMで一躍時代の寵児となる――。この物語は、広告代理店でCMを制作していた経験のあるロバート・ダウニー監督(俳優ロバート・ダウニー・ジュニアの父)の実体験にもとづいている。
スケッチ・コメディ的な細かいエピソードの積み重ねがグルーヴを生み、トゥルース・アンド・ソウル社の行く末とパトニー・スウォープ社長の決断になだれ込んでいく。《ラッキー航空》をはじめ、劇中に挿入される同社が手掛けるCMの映像と音楽だけでもサイケデリック、フラワームーブメントなど時代の空気をたっぷり浴びることができる。
この作品が生まれた1969年は『イージー・ライダー』が公開、プラックパンサー党のリーダー、フレッド・ハンプトンが殺害され、ウッドストックが開催された年でもある。物語の軸になっている体制への反抗や自由な雰囲気は、1969年の空気が反映されていることは間違いないが、同時に注目したいのは、この時点で急進的なブラック・パワーとその挫折についても指摘していることだ。
スウォープは社長になるや他の白人役員を解雇し、黒人スタッフだけの会社にしてしまうが、実はスウォープの台詞はスケジュールと予算の理由から主演のアーノルド・ジョンソンの代わりにダウニー監督自身が吹き替えを行っている。偶然にも生まれた設定ではあるが、声を奪われた黒人というモチーフはその後『ホワイト・ボイス』など多くの映画に受け継がれている。広告代理店と政治の癒着を正面切って描いたダウニーの皮肉と批評性は2022年のいま、もっと語られるべきだろう。
文:駒井憲嗣
『パトニー・スウォープ』予告編映像
あらすじ
1960年代のニューヨーク。マディソン・アベニューにある名門広告会社の創業者が突然亡くなり、会社の唯一の黒人役員(といっても楽曲担当)であるパトニー・スウォープが予想外の結果によって新社長に選出される。早速、スウォープは会社の名前をTruth and Soulに変更し、ほぼすべての白人役員を解雇してしまう。破壊的で奇抜で斬新だが悪趣味ともいえる過激な広告キャンペーンは次々とヒット商品を生み出し、会社は新たな成功へと飛躍する中、何とスウォープは国家安全保障への脅威であるとして、アメリカ大統領ミミオの陰謀に巻き込まれることになる……。
出演
アーノルド・ジョンソン
製作・監督・脚本
ロバート・ダウニー
原題:Putney Swope
1969年/アメリカ/85分/白黒・カラー
提供:RIPPLE V、3DAP Japan LLC
配給:RIPPLE V
公式HP:https://putneyswope.jp
7月22日(金)渋谷ホワイトシネクイントにて公開
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