ダンサーたちの飾らない表情が胸に迫る、『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』

【音楽に注目!新作レビュー】
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』
フレデリック・ワイズマン監督の『パリ・オペラ座のすべて』(2009年)をはじめ、『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』(2016年)『新世紀、パリ・オペラ座』(2017年)など、パリ・オペラ座を題材にしたドキュメンタリーは少なくないが、今作はまた新たな角度からバレエの殿堂に迫る作品だ。映画は、2020年3月に新型コロナウイルスの影響で閉鎖を余儀なくされた後、3ヵ月を経てダンサーたちが復帰する姿からスタートする。

© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
再開を喜ぶダンサーたちの笑顔の影に、1日6~10時間踊っていた日常から切り離された身体をもとにもどすための不安がのぞく。プリシラ・ピザート監督は、マチュー・ガニオらダンサーたちの正直な感情をインタビューで収めながら、バレエ団の復帰公演であるヌレエフ振付『ラ・バヤデール』へ向けて稽古を重ねていく彼らを追う。早く元のコンディションに戻りたいという焦りを感じながらも、ゆっくりとウォームアップを続けていく彼ら。公演での張り詰めた緊張感とは別の、リラックスした表情で「マイ・フェイバリット・シングス」「ラブ」といったジャズ・スタンダードをバックに踊る飾らない姿は、なかなか見ることのできない貴重なシーンであろう。レッスンにおいては、表情についても厳しい指示やアドバイスが飛び交い、マスクをしてレッスンを行わなければいけないというハンディをかかえながら、息を揃え、ダンサー同士がお互いを感じながら、稽古を続けていく。

© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
カメラがダンサー、振付指導者、芸術監督たちの背中を捉え、言葉にならない辛さや葛藤を伝えるシーン、そして現役最年少で最高位エトワールになったポール・マルクを祝福する同僚たちの姿が胸に迫る。コール・ド・バレエ(群舞)の真髄を堪能することができるだけでなく、共同作業によりそのエネルギーや可能性が何倍に膨らむアートの素晴らしさを体感できる作品だ。
文:駒井憲嗣

© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』予告編映像
あらすじ
世界的パンデミック禍、パリ・オペラ座も例外なく閉鎖。ダンサーたちは、1日6~10時間踊っていた日常から突如切り離され、過酷な試練と向き合っていた。2020年6月15日、3か月の自宅待機を経てクラスレッスンが再開。かつてない状況下、 最高位のエトワールたちは、“オペラ座の宝”といわれる演目、ヌレエフ振付の超大作「ラ・バヤデール」の年末公演に向け稽古を重ねていく。しかし、再びの感染拡大に伴い、開幕目前に無観客配信となり、初日が千秋楽となる幻の公演となってしまう。心技体が揃う絶頂期が短く、42歳でバレエ団との契約が終了となる彼らにとって、それは落胆の決断であったが、そんな激動の中で新エトワールが誕生する―。
キャスト
パリ・オペラ座バレエ
アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク
アレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
監督
プリシラ・ピザート
配給:ギャガ
公式HP:gaga.ne.jp/parisopera_unusual
© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
8月19日(金)、Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開
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